深夜二時の地下鉄ホーム。最終列車が去った後の静寂は、作業員の田村にとって日常だった。 「よし、今日も点検するか」 工具箱を手に、田村はホームの端へ向かう。線路とホームの隙間——そこに落ちた私物を回収するのも、彼の仕事の一つだった。 懐中電灯で照…
夕暮れの住宅街で、足が止まった。 道の向こうから、四人家族がこちらへ歩いてくる。 父と母、子どもが二人。 全員が手をつなぎ、同じ歩幅、同じ速さで進んでいた。 不気味だったのは、笑顔だ。 口角の上がり方が、まるで一枚の写真を切り貼りしたように一致…
元日の寒い朝、俺は配達用のバイクにまたがった。バッグには何百枚もの年賀状が詰め込まれている。 郵便局の年末バイトも今年で三年目だ。慣れた仕事のはずだった。 配達を始めて二時間ほど経った頃、嫌な計算が頭をよぎった。この量では、どう考えても今日…
大みそかの夜は、だいたいいつもこうなる。 テーブルの上には空いた缶と、半端に残った酒。 喉の奥が焼けるように気持ち悪く、頭は重い。 深酒だった。 理由ははっきりしている。 一年の終わりに、一人でいるのが耐えられなかった。 テレビはついている。 紅…
深夜二時、俺はスマホの画面を凝視していた。SNSで回ってきた一枚の画像。「これを見たら呪われる」という触れ込みだったが、そんなの信じるわけがない。 画像には、真っ黒な何かが牙を剥いて襲いかかってくる様子が描かれていた。白く濁った目、鋭い牙、そ…
僕が学校に行かなくなって、三ヶ月が経っていた。 親も先生も、もう諦めたように何も言わなくなった。部屋に閉じこもって、ただ時間が過ぎるのを待つ日々。そんな生活に、嫌気がさしていた。 ある日の夕方、ふと思い立って学校に向かった。誰もいない時間を…
深夜、鐘楼の見回りに向かう足が重かった。 見習い僧の俊海は、三日前から続く異変に怯えていた。夜になると、誰も撞いていないはずの梵鐘が鳴るのだ。最初は風か何かだろうと思った。しかし鐘楼に駆けつけても、撞木は元の位置に戻っている。縄も揺れていな…