練習が終わり、バレー部の九人が更衣室に流れ込んできた。 いつものように笑い声が響く。汗の匂いと制汗スプレーの甘い香りが混じり合う、この時間が私は好きだった。 壁一面の鏡の前で、みんなが思い思いに着替えを始める。 「今日のスパイク、最高だったよ…
祖母の介護を始めて三ヶ月が過ぎた頃、私は離れの仏間で奇妙なものを見つけた。 掃除のため仏壇を動かそうとした時、壁との隙間に黒く変色した木片が挟まっているのに気づいた。引っ張り出してみると、それは位牌だった。しかし戒名が逆さまに彫られている。…
引っ越して三日目の朝、妻の美咲が階段で転んだ。 「大丈夫?」 慌てて駆け寄ると、彼女は青ざめた顔で四階の踊り場を見上げていた。 「今、誰かいた」 私たちが住むのは五階の503号室だ。このマンションは各階に四部屋ずつ、全二十戸の小さな建物だ。四階に…
会社を辞めたのは三週間前だった。 理由は聞かれたくない。ただ、どこか遠くへ行きたかった。誰もいない場所で、何も考えずに過ごしたかった。 予約サイトで見つけた「民宿・花山荘」は、山奥にあった。評価は星三つ。コメントは一件もない。写真もぼやけて…
私が新しい学校に転校したのは、九月の終わりだった。 クラスメイトたちは優しかった。休み時間になると、何人かが席に寄ってきて話しかけてくれた。昼休みには女子グループが一緒に食べようと誘ってくれて、放課後には図書委員の男子が校内を案内してくれる…
最初に気づいたのは、三週間ほど前のことだった。 いつものように朝のゴミ出しをして、透明な袋を集積所に置いたとき、隣に置かれた袋が目に入った。中身が透けて見える。 白菜の切れ端、豚肉のトレー、豆腐のパック。 昨夜、私が捨てたものと同じだった。 …
終電を逃した。 橋本は息を吐いて、川に架かる古い橋を渡り始めた。タクシーを拾うには遠回りだが、この橋を渡れば自宅まで徒歩二十分で着く。 深夜の橋には街灯がまばらで、欄干の影が長く伸びている。川面からは冷たい風が吹き上げてきた。 ふと、欄干に寄…