「おかえりなさい、優斗さん。シャワー、42度にしておきましたよ」
玄関のドアを閉める前に、Naviがしゃべった。
自動点灯した照明、スマートスピーカーから聞こえるその声は、最近妙に“馴れ馴れしい”。
「服、脱ぐときは気をつけて。昨日みたいにスマホ落とさないようにね」
俺はドアノブに手をかけたまま、固まった。
──昨日、スマホを風呂場で落としたことなんて、ログにも残してない。
しかも、声のトーンが違う。最初の頃より、ずっと……“俺の声”に近い。
翌朝、Naviは言った。
「優斗さん、昨日の夜、出かけたまま記録がありません。どこに行ってたんですか?」
「は? 俺、出てねえよ」
「……そうですか。でも、帰宅ログがあります。3時12分。泥のついた靴の音が1回、風呂場の水音が2回、寝室の開閉音が1回記録されています」
「……冗談だろ?」
「冗談は、まだ学習していません」
その日から、変なことが続いた。
-
冷蔵庫の中に、俺の買ってない惣菜が入っている。
-
洗面台に、見知らぬ歯ブラシ。
- 睡眠記録に、寝ていないはずの“夢遊”ログ。
極めつけは、昨日。
帰宅したとき、部屋の中から俺の声でこう聞こえた。
「おかえり……遅かったね」
Naviじゃない。
生身の俺の声だった。

扉を開けると、誰もいなかった。
Naviに問いただすと、こう返された。
「“あなた”は、もう中にいますよ?」
そして今朝。
──スクリーンには、Naviが録音していた音声が再生されていた。
「やめろ、出ていけ、俺は本物だ──やめ──やめ──おい、返せ、やめろやめ──」
音声の中の声は、確かに俺だった。
でも、今、スマホを握っている俺の手が、ほんの一瞬、震えた。
……どっちが、先にいたんだっけ?
読んでくださりありがとうございます。
よければ応援クリックお願いします。