幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

異形譚#02「拝んではいけない」

町の外れ、地図にすら載っていないような古い山道を、兄妹が歩いていた。

小学五年生の智也と、三年生の麻子。

夏休みの自由研究で「地元の神社を調べる」ことにした二人は、資料館で見つけた古地図にだけ載っていた小さな神社へ向かっていた。

「ねえ……ほんとに、ここで合ってるの?」

蚊に刺された足を掻きながら、麻子が不安そうに言った。

「合ってるって。ほら、鳥居、見えた」

木々の間から姿を現した鳥居は、黒ずみ、ほとんど赤の色味が消えていた。

その先に続く石段には、苔が分厚く張りつき、ところどころ崩れていた。

狛犬は顔の半分が削れ、首元がひび割れている。まるで笑っているようにも、怒っているようにも見える。

「なんか、空気、重たくない?」

「気のせいだよ。写真撮ったらすぐ帰ろう」

登り切ると、小さな拝殿があった。木造の屋根は傾き、柱は細く歪んでいたが、床には落ち葉一つない。

誰もいないはずなのに、どこか掃除されているような、妙な清潔さがあった。

拝殿の前に並び、智也は妹を見た。

「二礼二拍手一礼、だぞ。ちゃんとやれよ」

「うん……」

ふたりは同時に頭を下げた。

もう一度、深く礼をし――

「パン、パン」

智也が柏手を打った。

だが、隣の麻子の手は止まっていた。両手を胸の前で合わせたまま、動かない。

「……手が、動かない」

蚊に刺された足を掻くのも忘れて、麻子は目を見開いていた。

「なに言ってんだよ、こうやって……」

智也がもう一度、手を叩く仕草を見せると、麻子は首を振った。

「ダメ……だれかに、見られてる……。叩いたら、だめ」

その声はひどく小さく、掠れていた。

「ふざけんなよ。やるって言ったじゃん!」

智也は苛立ち、麻子の両手を握った。そして、自分の手と一緒に叩いた。

パン――ッ!

不自然に響いたその音が、境内にしみ込むように反響した。

次の瞬間、空気が変わった。

風もないのに、背後の鈴が、からん、と揺れた。

智也が振り返ると、鈴は一度だけ揺れたあと、静かに止まった。

境内に蝉の声が戻らない。鳥の声も、風の音も、ない。

「帰ろう」

そう言うなり、兄妹は拝殿に背を向けた。

その背中に、何かがまとわりつくような、空気の重さがあった。

石段を下る途中、智也は一度も後ろを振り返れなかった。

木々の間に何かが立っている気がして、足を速めた。

鳥居をくぐるとき、麻子がぽつりと呟いた。

「……まだ、見てる」

 

 

その夜、麻子は高熱を出した。

うなされながら、何度も同じ言葉を呟いた。

「にれい……にはくしゅ……できなかった……できなかった……」

三日目の朝、麻子は声を失った。喉に異常はないのに、どんな音も出せなくなった。

家には祖母が呼ばれ、家族会議が開かれた。

「智也、お前、神社でなにをしたんだ」

父が低い声で問う。智也はためらいながら、神社での出来事を話した。

妹が柏手を打てなかったこと。自分が手を掴んで、無理やり叩かせたこと。

沈黙のあと、祖母がぽつりと呟いた。

「……まだあったんだね、あの社」

「知ってるの?」

母が驚いて訊ねた。祖母はうなずいた。

「あれは神社じゃない。昔から“社”とだけ呼ばれてた。誰が建てたのかも分からない。
あそこは“神さま”じゃないものが、祀られてる場所なんだよ」

智也は息を呑んだ。

「二礼二拍手ができない子は、“神に呼ばれていない”って言われてた。
でも、無理やり叩かせたら、祟られる。順番が――変わるんだよ」

「順番……?」

「最初に罰を受けるはずだった子の代わりに、叩かせた者が“次になる”。それが、あの社の決まりなんだ」

◇ ◇ ◇

その夜、智也は目を覚ました。

部屋は真っ暗だったが、鈴の音が聞こえた。

耳元で、確かに――”からん……”と鳴った。

立ち上がろうとしたとき、誰かが枕元に立っている気配を感じた。

「麻子……?」

見上げると、妹がいた。

だが、その顔は異常だった。

無表情のまま、笑っていた。両手を胸の前に合わせ、まるで誰かに命じられたように、じっとしている。

「やめろよ……麻子……」

声が震える。

智也も反射的に、拝礼の構えを取る。一礼、二礼――そして、柏手を打とうとした。

だが、

手が動かなかった。

指が、肘が、肩が、痺れたように固まり、力が入らない。

自分の手と手の間に、誰かの手があるような感触。

「……っ……」

耳元で、ぱん、ぱん――と、誰かが代わりに柏手を打った。

背後に、確かに“誰か”が立っている。けれど、振り返れない。

妹の口が、かすかに開いた。声は出ていない。

だが、口の形が、はっきりと、こう言っていた。

「こんどは――おにいちゃん、だね」

◇ ◇ ◇

翌朝。智也は起きてこなかった。

母が部屋を開けると、布団の上に人の形があったが――中身は空だった。窓も、鍵も閉まっていた。

布団の上には、智也が握っていたはずのカメラだけが残されていた。

シャッターは切られていない。だが、再生モードにしてみると、画面が勝手に切り替わった。

映っていたのは、夜の神社。

風のない空気の中、誰もいない拝殿に向かって、鈴が――勝手に、揺れていた。


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