幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

狂気譜#02「掃除が、終わらない」

大学三年の春、一人暮らしを始めた。

バストイレ別の古いアパートで、六畳の部屋。安いだけが取り柄だが、俺にとっては城だった。

誰にも干渉されない、自分だけの空間。そう思っていた。

最初に気づいたのは、入居から三週間目のこと。

散らかした覚えのある服が、きちんと畳まれていた。

「まあ、寝ぼけて片付けたのかもな」と笑った。

だけど、笑いながらも胸の奥に、ひっかかりがあった。

それは次の日に確信に変わった。

机の上が完璧に整理され、プリントが束ねられていた。俺の雑な性格では、あり得ない整頓ぶりだった。

混乱したまま、スマホのメモ帳に書いた。

「今日、誰か来た?」

次の日、知らない文が追記されていた。

「また汚れてたから、片付けといたよ」

背筋が凍った。誰かが俺のスマホを操作した? ロックはしてあったはずなのに。

震える指でスマホを持ち、部屋中を見回した。ドアも窓も閉まっていた。けれど、確実に“何か”が、部屋の中に入った気配があった。

それでも俺は、警察に行かなかった。

「被害はない」「ただのイタズラかも」「寝ぼけていたのかも」

そんな言い訳を繰り返しながら、自分の恐怖に蓋をした。

でも、“それ”は止まらなかった。

次の日、台所の流しが磨かれていた。脱ぎっぱなしのシャツが、タンスに仕舞われていた。
俺は何度も、記憶をなぞった。「こんなこと、俺がやったのか?」「いや、でも……」

脳のどこかがぐらつくような、奇妙な感覚。自分の行動が、自分の記憶と一致しないことがこんなに怖いなんて、知らなかった。

でも一方で、俺は安心していた。

散らかった部屋が整っていることに、正体不明の“誰か”が俺の代わりに掃除してくれていることに、どこか安堵を覚えていた。

いつしか、部屋を綺麗にしてもらうことが「前提」になっていった。

そんな自分に気づいたとき、寒気がした。

「俺……壊れてきてるのか?」

ある晩、鏡に文字が浮かんでいた。

「ひどいよ、わざと散らかすなんて」

俺は、心から申し訳ないと思った。

涙が出た。誰かが自分のために尽くしてくれている。

俺はその手間を踏みにじった――そんな罪悪感が、胸の奥から湧き上がってきた。

そしてその感情は、どこか温かかった。「俺は独りじゃない」と、錯覚してしまったのだ。

そんな俺を見て、バイト先の先輩は笑った。

「それ、ストーカーじゃね?やばくね?」

笑えなかった。

その言葉が、なぜかひどく不快だった。

“あの人”を、悪く言われた気がした。俺の“世話をしてくれる人”を。

ある日、ポストに封筒が届いた。

「次は、身体の中も片付けてあげるね。きみ、内臓もずいぶん汚れてる」

目を通した瞬間、喉の奥が熱くなり、吐き気が襲ってきた。

洗面所で吐くと、黒い塊がドロリと出た。鏡を見ると、俺は……俺じゃなかった。

目の下にクマ、くすんだ肌。なのに、その顔を見たとき、俺はこう思った。

「これが本当の俺なんだ」

 

 

病院へ行こうと玄関まで歩いたが、足がすくんで動けなかった。

扉の前で膝が崩れた。涙が止まらなかった。

「外は汚い」

どこからともなく、そんな声が聞こえた気がした。

そのとき初めて、自分が何日も大学に行っていないことに気づいた。

授業も、バイトも、もうどうでもよかった。ただ、部屋さえあればよかった。

スマホを開くと、画面が真っ白になっていた。

アプリも、履歴もない。ただ、ひとつのメッセージだけが表示されていた。

「今日もきれいにしたよ。でもまだ、きみの“心”が汚れてる」

その晩、目覚めるとシーツが血で濡れていた。腹に切り傷。

でも、痛みはなかった。むしろスッとした。

「汚いものが、出ていった」と思った。

それが何かなんて、どうでもよかった。ただ、部屋が完璧であることが重要だった。

もう、泣けなくなっていた。

涙が、出ない。怒ることも、笑うことも、難しくなってきた。

でもそれは悪いことじゃなかった。むしろ、“順調な回復”のように思えた。

朝、目覚めると、指が一本なくなっていた。

どこかで、こうつぶやいていた。

「汚かったもんな、あの指……」

血も出ていなかった。痛みもない。

代わりに、空気が澄み渡っていた。これまでにないほど、呼吸が心地よかった。

その日の夜、スマホに最後のメッセージが届いた。

「これでようやく、全部きれいになったね。……次は、誰を片付けようか?」


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