幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

都市怪談録#01「ノックの女」

高校の女子トイレには、ひとつだけ古い個室がある。

新しくなった他の個室と違って、そこだけ床が微かに沈み、壁紙も薄く黄ばんでいた。

天井の明かりだけが暗く、何かの拍子に点滅する。

誰が言い出したのかは知らないが、その個室には“ある噂”がある。

深夜2時44分に、その扉を5回ノックすると、女が現れる。

ただし──返事をしてはいけない。どんな声にも。

くだらない、と思っていた。

けれどある日、朱音(あかね)が言い出した。

「マジでやってみようよ。来たら動画撮って、バズらせよう」

私と沙耶(さや)と朱音は、入学してからずっと一緒だった。

怖かったけど、朱音の言葉に引きずられる形で、私たちは夜の学校にこっそり忍び込んだ。

深夜の校舎は、思っていた以上に静かで、寒かった。

非常灯の明かりはかすかに点滅し、廊下の奥から何かの機械音が遠くに聞こえた。

女子トイレの中も、湿気を含んだ空気が淀んでいた。

奥の古い個室だけが、明らかに異質だった。

床は沈み、鍵はぐらついていて、塗装も剥げていた。

沙耶がスマホを見て言った。

「……2時43分」

空気が一段と重くなった気がした。風もないのに、頬に冷たい何かが触れた気がして、思わず肩が震えた。

「ほんとにやるの?」

私が聞くと、朱音は笑って頷いた。

「やらなきゃ意味ないじゃん」

彼女はゆっくりと拳を握り、古びたドアの前に立つ。

スマホの画面が2時44分を示した瞬間、彼女は静かにノックをした。

コン、コン、コン、コン、コン。

……沈黙。

3人とも息を殺した。空気が張り詰めているのがわかった。

「……なーんも起きないじゃん」

朱音が肩をすくめて笑った、その直後だった。

コン、コン、コン、コン、コン。

まったく同じリズムで、内側からノックが返ってきた。

私たちは一斉に凍りついた。朱音が声を出しかけたが、沙耶が慌てて口を塞いだ。

返事をしてはいけない──噂の通りだ。

その瞬間、ドアの下から何かが覗いた。

白く細い足。影のような、境界の曖昧な輪郭。

誰かが中にいる。けれど、私たちは知っていた。さっきまで誰もいなかったことを。

「帰ろう」

沙耶の声が震えていた。

その夜はそれで終わった。誰も返事をしなかったからだ。

帰り道、誰も話さなかった。

次の日、朱音は学校に来なかった。

担任は「風邪らしい」と言ったけれど、LINEも既読にならず、SNSの更新も止まっていた。

三日後、朱音の部屋は空っぽになっていた。

親もいなくなっていた。まるで最初から存在していなかったかのように。

一週間が過ぎた頃、沙耶がぽつりと呟いた。

「あのとき……朱音、なんか言ってた。“なんか聞こえた”とか、返事みたいなこと」

私も思い出していた。朱音は、ノックが返ってきた瞬間、笑って何かを呟いた。

あれが“返事”だったのかもしれない。

それから私も、妙な気配を感じるようになった。

特に、学校の女子トイレの鏡。あの古い個室がある場所。

鏡を見るたび、背後に視線のようなものを感じた。振り返っても、誰もいないのに。

沙耶もおかしくなっていた。誰とも話さず、目を合わせようとしなかった。

そしてある日、彼女は女子トイレの床で倒れていた。

意識を取り戻したとき、彼女は天井を見つめたまま、かすれた声で言った。

「……いたの。個室の中に」

震える指で空中をなぞりながら、沙耶は続けた。

「ずっと立ってた。しゃがんでも、動いても、音ひとつ立てないまま……。
壁と同じ色で、最初は気づかなかった。目を凝らすと、輪郭が浮いてくるの。人の形。でも、あれは人じゃない」

「顔がなかった。真っ黒で、何もない。でも、見られてるのだけはわかった。
息をしてないのに、生きてる。壁と同化して、ずっと、こっちを見てた」

 

 

「声がした。“今度は、あなたの番”って。耳じゃなくて、頭の中に。
ドアが開いてなくても、あれはもう、外に出てる」

その日を最後に、沙耶も学校に来なくなった。

私は、ただ黙って日常を続けた。噂にも、二人の名前にも触れなかった。

私は返事なんかしていない。

そう信じていた。

けれど──昨夜。

夜中、寝ぼけたままトイレに行こうと廊下に出たとき、背後で音がした。

コン、コン、コン、コン、コン。

時計を見ると、2時44分。

誰もいない廊下。なのに、確かに音が響いた。

トイレのドアノブに触れた瞬間、背後に冷たい気配を感じた。

ゆっくりと振り返る。

廊下の隅に、何かがいた。

最初は気づかなかった。壁と同じ色、同じ質感──空間の“染み”のようだった。

でも、そこに“輪郭”があった。人の形をして、立っていた。

顔がない。ぽっかりと空いた黒い穴だけが、こちらを向いていた。

足元に、水の跡ができていた。

濡れた足跡が、私の背後からトイレの中へと続いていた。

トイレの電気が、勝手についた。

振り返ると、扉の隙間に誰かが立っていた。

壁と同じ色をした女が。

「返事、してくれたよね」

そのあと、私はいなくなった。

もう、誰も私のことを知らない。

でも、今もどこかで音がする。

2時44分に、5回だけ──そのあと、必ず返ってくる音。

そしてまた、誰かが呼ばれる。

そうして、“壁の女”は、増えていく。


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