幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

学苑怪談#01「鍵盤が、ひとつ、増えた」

音楽室のピアノには鍵盤がない。

白鍵も黒鍵も、すべて剥ぎ取られたまま、ただの箱のようにぽつんと置かれている。

それでも、ときどき、音がする。

誰も触れていないのに――誰もいないはずなのに――チャイコフスキーの『舟歌』が流れ出す。

途中で、必ず、止まる。

この話をする理由は、誰にも理解されないと思う。

でも、今さら黙っているのも違う気がして。

だって私が始めたことなのだ。

あの日、あの子を、あそこへ追い込んだのは、私だった。

彼女は、目障りだった。

フルートばかり吹いて、こちらの空気を読まずに練習していた。

音楽室のピアノに座って、よく“舟歌”をなぞっていた。指で鍵盤をなぞるだけ。

誰にも何も言わず、ひとりで集中して。

それが気に入らなかった。鼻についた。

私は、さりげなく始めた。

楽譜を隠す。譜面台を倒す。休憩中に机を漁る。

周りもすぐに乗ってきた。

彼女は何も言わなかった。耐えていた。

それがまた腹立たしかった。

だから、私は最後の日、あの屋上に行った。

「このままじゃずっと無視され続けるよ?」

「ここから飛べば、注目されるんじゃない?」

もちろん、冗談だった。

でも、彼女は笑わなかった。

無言で、柵の上に足をかけた。

「……やめなよ」

気づいたときには、もう落ちていた。

 

 

私は何も言わなかった。

ただ、走って逃げた。

誰にも言わなかった。

あれは事故になった。

うやむやにされた。

誰も関わらなかった。

私の計算通りだった。

……のはずだった。

音が鳴り始めたのは、それから数週間後。

誰もいない音楽室で、舟歌の断片が聞こえるようになった。

最初に気づいたのは、私だった。

昼休み、廊下を歩いていたら――“チリン”という音。

小さな鈴。あの子のブレスレットの音。

そして、ぽん……と、ピアノの音。

鳴るはずのない鍵盤から、音がした。

最初は無視した。

けれど、夜中にも聞こえるようになった。

自分の部屋、布団の中。眠りに落ちる寸前、誰かが背中で舟歌を弾いている。

夢だと思った。

でも、翌朝、机の角に爪の痕が残っていた。

気づくと、私の指が勝手にリズムを取っていた。

骨の中にメトロノームが入ったような、止められない打音。

関係ないはずの部員も、ひとりずつ壊れていった。

退学した子もいたし、家ごと引っ越した子もいた。

皆、「指がおかしい」と言っていた。

「骨が動く」「止まらない」「誰かに弾かれてる」って。

でも私は違う。

私は――知っているから。

私は、“主旋律”だった。

彼女を追い詰めた最も強い音だった。

だから彼女は、私を鍵盤の中心に選んだのだと思う。

そして今日、私は自分の指が“戻らなくなった”ことに気づいた。

動かすたび、どこからか舟歌が鳴る。

耳元で、じゃない。指の骨から、直接響いてくる。

足元には、黒い鍵盤の影が伸びている。

私の身体が、“鍵”に変わっていくのがわかる。

息を吸うたび、あの子の呼吸が混ざっている。

声が出ない。

思い出すことすら、怖い。

でも、指だけは止まらない。

音楽室に行かなければならない気がする。

呼ばれている。

鍵盤のないピアノに。

私のための“鍵”が、ひとつ足りないらしい。

だからこれを書いている。

最後の記録として。

もし、あなたがある日、学校の音楽室で“チリン”と音を聞いたら、すぐに離れて。

それは演奏の始まり。

あなたが何もしていないなら、まだ間に合う。

けれど、何かを見て見ぬふりした覚えがあるなら……

無視したことがあるなら……

それはきっと、あなたの指に触れにくる。

舟歌はまだ、最後まで弾かれていない。

私の音が鳴り終わったら、

次は――