幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

異形譚#04「写らない鳥居」

あれは、三年前の夏の終わりだったと思う。

廃墟を専門に撮る知人の写真家がいた。

名は田村。

都市伝説マニアでもオカルト好きでもない、ごく普通の中年男だった。

古い工場や使われなくなった公民館など、どこか“人がいなくなった痕”の残る場所を好んで撮っていた。

ある日、田村が「気になる神社がある」と言ってきた。

山奥の地図にすら載っていない場所で、古い郷土資料の片隅に、小さなモノクロ写真だけが残っていたという。

坂の途中に、傾いた鳥居。背後にぼんやりと拝殿らしき建物。地名も社名も不明。

「ちょっと行ってみたくなってさ」

彼は笑っていた。興味本位だったのだろう。

それから、田村の様子が変わった。

「鳥居が、写らなかった」

そう口にしたときの彼は、どこか落ち着きのない顔をしていた。

話を聞くと、現地にはたしかに神社跡があったらしい。

赤茶けた鳥居。苔むしていて、上部が少しひび割れていた。

その奥には拝殿らしき建物が半壊状態で残っていたが、屋根が崩れていて中には入れなかったという。

田村はいつも通り、一眼レフで何枚も撮影した。スマホでも動画を回した。

けれど、帰宅して確認すると、鳥居だけが写っていなかった。

「そこにあるはずなのに、まるで空間そのものが抜け落ちてるんだ」

写真を見せてもらった。たしかに、境内は映っていた。

倒木、石段、崩れかけの注連縄。その中心部──鳥居があるはずの場所だけが、妙にぼ

やけて、波打つように歪んでいた。

「動画に……音が入ってた」

彼はそう言って、スマホを渡してきた。

再生すると、風の音。遠くで鳥が鳴いている。

その合間に、低い、かすれた声が混じっていた。

「……カエレ……」

一語だけ。確かに、そう聞こえた。

「変なんだよ」

田村は続けた。

「ファイル、全部削除したんだ。カメラのデータも、パソコンも。クラウドも確認して、フォーマットまでした。……でも数日経つと、勝手に戻ってくる。日付も内容も全部“あの日のまま”で」

そのときはまだ、冗談か思い込みかと思っていた。

けれど、それから間もなく、田村は消息を絶った。

彼の車も、装備も、姿も──何一つ見つかっていない。

部屋に残されていたのは、起動しっぱなしのカメラと、空になったSDカードだけだった。

つい最近、ふと彼のことを思い出し、昔の外付けHDDを引っ張り出してきた。

中に、田村からもらったまま放置していたフォルダがあるのを思い出したのだ。

開くと、そこには神社の写真が並んでいた。

鳥居のあったはずの空間。やはり中央だけが歪んでいた。

静止画なのに、画面の中心がゆらゆらと脈打つように揺れている。

私はそのまま、何枚も写真を送り続けた。

そのたびに、鳥居の姿が少しずつ濃く、くっきりと見えてくるような気がした。

動画もあった。

あの声は、今はもう少し近くで囁くように聞こえる。

「……カエ……レ……」

何かがおかしい。

その夜、夢を見た。

 

 

自分が坂を登っている。湿った土。ぬかるんだ石段。

目の前には、赤い鳥居。

傾いた木の枠を見上げながら、私はカメラを構えていた。

レンズ越しに見えたのは、鳥居の奥──誰かが立っている。

シャッターを切ると、画面の中で、その誰かがこちらを向いた。

田村だった。

ただ、顔は……なかった。

いや、見えているはずの部分が、画面全体と同じように、波打って歪んでいた。

彼が、無言でこちらを指さす。

私は鳥居をくぐろうとした。

そのとき、背後でシャッター音が鳴った。

振り返ると、そこにもう一人、自分が立っていた。

──目が覚めたとき、耳元で風が鳴っていた。

窓は閉まっていた。

次の日、フォルダに見覚えのない写真が増えていた。

家の前。ドアの影。地面に伸びる影。

その中央に、ぼやけた鳥居の一部が写っていた。

画面は少しずつ、はっきりしてきている。

このままいけば、いずれ“全体”が写るだろう。

だから今は、わかることがひとつある。

──あれは門なんだと思う。

人間が通る門じゃなくて、向こうの何かが出入りする門。

カメラで写すと、それが“開く”。

田村は、それを知ってしまったんだ。

そして今──私の背後でも、風が鳴っている。


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