入社して三週間。昼休みはいつも、職場の休憩室で過ごしていた。
窓際の長机には決まって三人の先輩が座っている。
営業の田村さん、総務の佐伯さん、そして経理の村山さん。
俺はその三人に軽く会釈し、弁当を広げるのが日課だった。
「お疲れさまです」
田村さんが笑い、佐伯さんが天気の話をする。
村山さんは、口元だけで笑って軽くうなずく。目は少しも笑っていなかった。
ある日、会議が長引き、昼休みに遅れて休憩室に入った。
窓際には田村さんと佐伯さんしかいない。
「あれ、村山さんは?」と聞くと、二人は同時に首をかしげた。
「村山?」
「誰のこと?」
まったく冗談めかしていない。俺は笑ってごまかし、その場を流した。
翌日、また村山さんがいた。
白いシャツに灰色のスラックス、薄く吊り上がった口元。
昨日のことを話すと、「そういうもんだよ」と低く言った。
意味を尋ねる前に、彼は俯き、箸を動かし続けた。
数日後、経理に書類を届けたとき、村山さんはいなかった。
責任者に尋ねても「うちにそんな人いませんよ」と即答された。
机の配置は変わらないのに、座っているのは別人だった。
金曜の昼、休憩室に入ると、窓際の席には見知らぬ若い女性が座っていた。
田村さん、佐伯さん、その女性の三人が、まったく同じ笑顔で俺を見ている。
唇の端を同じ角度で上げ、目は笑っていない。
「お疲れさまです」と口にすると、三人が同時にうなずいた。
「……村山さんは?」
女性が首をかしげる。
「村山さんって……誰のこと?」
田村さんと佐伯さんも、同じ抑揚で繰り返した。
午後、デスクで仕事をしていると、ふと視界の端にガラスの反射が入った。
そこに映った自分の顔を見て、息が詰まる。
――笑っている。
口角が不自然に引きつり、目は動かず、あの三人とまったく同じ笑顔になっていた。

背後のガラス越しに、ぼやけた三つの影がこちらを覗いている。
焦点が合った瞬間、三人の口がゆっくりと、同時にさらに引きつった。
反射の中で、自分の口元も同じように歪んだ。
そのとき、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと――そこには誰もいなかった。
ただ、ガラスの中では、四人全員が笑っていた。
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