幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

幽譚録#02「白布の下」

夜の病院は、不自然に静かだった。

昼間は行き交う足音や検査の声で満ちている廊下も、深夜の清掃の時間には、床のワックスがけの音が虚しく響くだけだ。

アルバイトの青年――広瀬は、黙々とモップを動かしていた。

患者は夜間病棟に十数人だけ。ナースステーションからも遠いこのフロアは、普段ほとんど人が来ない。

だからこそ、時折聞こえる微かな物音に敏感になる。

「……」

耳を澄ます。

廊下に設置された赤いランプが点滅し、ナースコールの音が鳴った。

カチ、カチ、と規則的な電子音。

広瀬は顔を上げた。

鳴っているのは――二〇五号室。

だが、そこは――誰も入っていないはずの病室だった。

昼間、看護師が「ここは空き部屋だから」と笑っていたのを思い出す。

ベッドは整えられたまま、しばらく使われていない。

にもかかわらず、確かにランプは光っている。

「機械の誤作動……だよな」

小さくつぶやきながらも、胸の奥で心臓が早鐘を打つ。

ナースに知らせようか。

けれど、深夜のナースステーションは人手も少ない。清掃員が呼びに行くのも気が引けた。
それに、自分で確認して誤作動だったとわかれば、それで済む。

そう考え、広瀬は二〇五号室の扉に手をかけた。

――ギィ……。

部屋の中は暗い。

非常灯がぼんやりとベッドを照らしている。

そして、そこで広瀬は――息を飲んだ。

白い布団が、人の形に膨らんでいたのだ。

頭からすっぽり覆うように、布団が盛り上がっている。まるで患者が眠っているかのように。

 

 

「……誰か、いるんですか?」

声をかけたが、返事はない。

静寂の中で、ただ機械の電子音だけが響いている。

広瀬は一歩、二歩と近づいた。

シーツの下の形は痩せた老人のように見える。

だが、ここに患者がいるはずはない。

「すみません……?」

布団の端にそっと手を伸ばす。

指先が布地をつかんだ、その瞬間――。

――ピタリ。

ナースコールの音が止まった。

部屋に、完全な静けさが訪れる。

耳の奥で自分の血流の音だけが響く。

広瀬は恐怖に耐えきれず、勢いよく布団をめくった。

そこには――誰もいなかった。

ただ、マットレスには確かに、人が横たわっていたかのような深い凹みが残っている。

人影はなく、冷たいシーツが乱れているだけだった。

「……っ」
喉が渇き、声にならない息が漏れる。

背後の闇から誰かに見られているような気配に押されるように、広瀬は部屋を飛び出した。

廊下へ戻ると、先ほどまで点滅していたランプは消えている。

何事もなかったように、病棟は静まり返っていた。

――気のせいだ。

自分に言い聞かせるようにモップを握り直す。

だが、その夜からだ。

清掃中、背後に足音を聞くようになった。

振り返ると誰もいない。

モップで拭いたはずの床に、水滴の跡がいくつも続いている。

極めつけは――三日後。

またしても二〇五号室のナースコールが鳴った。

広瀬は震える足で向かい、扉を開けた。

部屋の中。

布団の凹みは以前よりも深く、枕の上には白髪が数本落ちていた。

「……どういう……」

その瞬間、ナースコールが自動で切れ、代わりに枕元の受話器から声がした。

「……寒いんだよ」

老人のようなかすれ声。

広瀬は悲鳴を上げて後ずさった。

受話器は誰も触れていないのに、勝手にガタンと落ちる。

――そして、布団がもぞりと動いた。

沈んだ凹みが、ゆっくりとこちらに向かって起き上がるように。

広瀬は廊下に飛び出し、振り返ることなく逃げた。

背後で何かがシーツを引きずる音が、ずるり、ずるりとついてくる。

階段を駆け下り、ナースステーションへ辿り着いたときには、声も出ないほど青ざめていた。

しかし、ナースに訴えても――。

「二〇五号室は鍵がかかってますよ」

そう笑われただけだった。

鍵は渡されたまま誰も開けていないという。

――では、あの布団に沈んでいたのは?

以来、広瀬は夜勤を辞めた。

だが噂によると、いまも深夜になると、あの病室のランプが点滅し続けているらしい。

そして――広瀬自身の布団にも。

眠ると、必ず隣に人の形の沈みが現れるという。

布団をめくっても、そこには誰もいない。

ただ、枕には一本ずつ、白髪が増えているのだ。


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