幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

異形譚#08「白い顔」

登山口には古い注意書きが貼られていた。

〈この谷の水は持ち帰らぬこと〉

青年は笑い飛ばし、湧き水をボトルに汲んだ。冷たさは心地よく、くだらない迷信にしか見えなかった。

夕暮れ。峠道を走る車は二本目の長いトンネルに差しかかる。入口脇には古い慰霊碑。花は枯れ、瓶の水は濁っていた。湿った空気にライトを灯すと、闇が口を開ける。

入った瞬間、ラジオがノイズを吐き、沈黙した。

代わりに「ぽたり」と水滴の音。窓は閉めているのに、また「ぽたり」。

「……結露か」

声は震えていた。

ヘッドライトに照らされた壁の染みが、人の顔のように浮かぶ。

フロントガラスは薄く曇り、デフロスターを入れると霧が引いた。

だが助手席の窓に、白い顔が貼りついていた。曇りで形作られた、輪郭の曖昧な顔。口だけが長く開閉し、声なき声で「開けて」と告げているように見える。

 

 

青年は慌ててアクセルを踏む。出口の光に飛び込むと顔は崩れた。

「……幻覚だ」

だがルームミラーには、後部座席の布に曇りが二つ残っていた。まるで誰かが腰掛けているように。

三本目のトンネル。

入ると同時にラジオが勝手に点き、砂のような雑音の合間に低い響きが混じる。

助手席の窓には再び白い顔。今度は一つではなく、大小さまざまな顔が並び、同じ口の形を繰り返していた。

「開けない!」

叫んでも顔たちは薄く笑うばかり。後部座席の濡れは広がり、小さな手形が曇りに浮かんだ。

青年は思い出す。登山口の紙。

〈この谷の水は持ち帰らぬこと〉。

床に転がったボトルのふたは緩み、水が滲み出していた。雑音の奥から声が滲む。

「……かえ、し、て」

震える手でボトルを拾い、ふたを外す。冷たい水が掌を濡らすと、白い顔たちは一斉に口を閉じた。

「返す……返すよ」

外に捨てようと窓に手を伸ばしたが、恐怖に動けない。開ければ入ってくる。

フロントガラスの中央に残った顔が、口の形で告げる。

「の、ど」

喉に水の味が広がる。青年はボトルを口に当て、一気に飲み干した。

冷たさが体を貫き、指先から力が抜けていく。だが顔は消えず、むしろ彼自身の呼気で、新しい顔がガラスに形作られた。青年の輪郭を真似た白い顔が。

視界が白に埋まり、車は制御を失って壁に擦れ、そのまま止まった。

——翌朝。

作業員が発見した車の窓には、無数の手形と乾かぬ白い顔の跡が残っていた。

報告のため近づいた作業員の吐息がガラスに触れたとき、その顔は青年のものに変わり、作業員の息と重なるように、窓の内側で口を開いた。


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