幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

学苑怪談#04「舞台裏に響くもの」

体育館の舞台裏は、常にどこか湿っていた。

木材が染み込んだ古い水分の匂いと、汗と、埃。

電源を入れる前のアンプからは、耳鳴りのような低い唸りが絶えず漂っていた。

「ここ、嫌な感じするな」

ギターの蓮が言った。

「舞台裏なんてどこもこんなもんだろ」

ベースの恭平が鼻で笑った。

ドラムの優斗は何も言わず、スティックを握ったまま舞台の奥を見つめていた。

翌日の文化祭で演奏する予定の曲。

三人はその仕上げを確認するため、舞台裏で音を合わせていた。

だが、蓮は最初の一音から異常を感じた。

――誰かが一緒に弾いている。

ギター、ベース、ドラム。

自分たち三人の音に、ほんの一拍遅れて同じ音が重なる。

アンプの返りかと思ったが、リズムも抑揚も完璧に一致していた。

「おい……」

蓮が演奏を止めると、残響だけがしつこく残り続けた。

そしてその残響は、まるで“別の演奏”に変わっていった。

文化祭でやるはずの曲が、完全な形で流れてくる。

自分たちの稚拙な演奏よりも格段に完成度が高い。

観客の歓声まで混じり、体育館全体が震えるほどの臨場感を帯びていた。

「録音とか流してんのか?」

恭平が顔を引きつらせた。

「違う……こんなの誰も録ってない」 

蓮は確信していた。

この音は、自分たちが知らないのに“知っている”音だ。

優斗がスティックを握りしめ、唐突に言った。

「俺、思い出した」

二人が振り向く。

「前にもやったんだよ、この舞台で。この曲で」 

優斗の声は妙に平坦だった。

「嘘つけ」

恭平が否定した。

「去年は台風で中止だった。お前だって知ってんだろ」

「でも、俺は覚えてる」

優斗はじっと目を見開いたまま、乾いた笑みを浮かべた。

「歓声のあとで……悲鳴が響いたんだ」

蓮の背筋に冷たいものが走った。

優斗の言葉が、舞台裏の空気そのものを重くしたように思えた。

その瞬間、照明も落ちているはずの舞台からスポットライトが差し込み、三人を照らした。 

見上げると、誰もいない観客席に黒い影がぎっしりと並んでいる。

「なんだよ……これ」

恭平が震える声で言った。

影は一斉に立ち上がり、手を叩いた。

次の演奏を求めるかのように。

気づけば、三人の手には楽器が握られていた。

蓮の指は勝手に弦を押さえ、恭平のベースが低音を刻み、優斗のスティックが宙を叩く。

――体が、自分の意思を無視して動く。

曲は進む。

だが蓮には、弾いている音がすべて“記憶にない”ものに感じられた。

なのに、同時に「前にも弾いた」という確信が胸の奥に張り付いている。

観客の影が揺れ動き、笑っているように見えた。

黒い顔には目も口もなく、ただ音に合わせて蠢いている。

「やめろ……やめろぉ!」

蓮はギターを叩きつけた。

だが砕けた弦からは、さらに大きな音が響いた。

舞台裏の空気を震わせ、頭蓋の内側に食い込むような音。

恭平が耳を塞ぎ、悲鳴を上げた。

「こんなの俺たちの曲じゃない! 誰が作ったんだよ!」

優斗だけは、無表情のまま演奏を続けていた。

曲が終わると同時に、体育館は再び静まり返った。

照明が落ち、影も消えた。

だが三人の耳には、まだ余韻が残り続けていた。

蓮は膝をつき、荒い息を吐いた。

「……俺たち、さっき何をやってた?」

恭平は答えなかった。

顔を伏せたまま、口の中で小さく繰り返している。

「……もう一回……もう一回……」

その声は震えていたが、確かに笑っていた。

気づくと、舞台裏の出口がなくなっていた。

扉も通路も壁に変わり、残されたのは舞台へ続くカーテンだけ。

優斗が立ち上がり、淡々と告げた。

「また始まるぞ」

その言葉と同時に、カーテンの向こうからイントロが流れてきた。 

記憶にないのに馴染み深い旋律。

拒めないほど自然に体を支配する音。

蓮は泣きながら首を振った。

「もう嫌だ……やめたい……!」

だが足は舞台へと歩き出していた。

背後で恭平が狂ったように笑い、優斗は無表情のまま歩調を合わせる。

観客席に再び黒い影が溢れる。

拍手が嵐のように響き渡る。

 

 

――そして曲が始まる。

蓮の喉から悲鳴が漏れたが、それすらも音に溶け込み、旋律の一部になっていった。


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