空き地の真ん中に、妙な模様が描かれていた。
夜遊びの帰り道、三人の子ども――翔太、直哉、美希はその前に立ち止まった。
地面に連なる丸と線。連符のように規則正しく、しかし不気味に歪んだ陣が掘り込まれている。
「なんだよこれ……呪文?」
翔太が眉をひそめた。
「真ん中、立ってみろよ」
直哉が笑いながら陣の中央に足を踏み入れた。
美希が息を呑む。だが、何も起こらなかった。
しんとした夜。風の音。どこか遠くで犬が吠える。
「なーんだ、つまんね」
直哉が肩をすくめた。
その瞬間、翔太は確かに聞いた。足元の土から――かすかな笑い声。
だが、直哉も美希も気づいていないらしい。
「帰ろ。怒られる」
三人は肩を寄せ合い、夜道を引き返した。
数日後。
学校のチャイムが鳴り響く。国語の授業、黒板に書かれた漢字をノートに写す時間。
翔太はふと、自分のページに黒い染みが浮かんでいるのに気づいた。土の色だ。
消しゴムでこすっても取れない。
机の脚元にも、砂がさらさらと積もっている。
給食の時間、美希の牛乳瓶が突然傾き、床に倒れた。白い液体が広がる中に、黒い土が混じっていた。
誰も気づかず、「こぼすなよー」と笑っているだけ。
掃除の時間、直哉が廊下をモップで拭いていた。
その足元から「ひひ……」と小さな笑い声がした。
直哉は青ざめて翔太を振り返ったが、他のクラスメイトは誰も耳にしていない。
放課後。
廊下で「床が抜けた」と騒ぎが起き、全校生徒が体育館に集められた。
先生たちが懐中電灯を持ち出し、床を点検する。
だが、傷一つない。静まり返った体育館に、全員が耳を澄ます。
――聞こえた。
床の下から、幾重にも重なる笑い声が。
「ひひ……ひひひ……」
規則正しく、連符のように。
悲鳴があがり、生徒たちは四方へ散った。だが、逃げた先の廊下でも、給食室でも、図書室でも、同じ笑い声が響く。

最初に消えたのは直哉だった。机にしがみついたまま、ふっと姿を失った。
次の瞬間には、机も床も普通のまま残っていた。
次に美希が消えた。黒板の前で。
残ったのは、チョークの粉に混じる黒い砂だけ。
翔太は必死に先生に縋った。
「先生! 助けて! 床が……!」
担任が駆け寄り、肩に手を置いた。
だが、その口元が引き攣るように歪み、笑い声が漏れた。
「おかしいなぁ……なんでこんなに楽しいんだろうね」
その瞬間、翔太は悟った。
体育館も、廊下も、教室も――学校そのものが呪陣になっていた。
床がほんのわずかに沈む。チャイムが鳴り響く。
授業の始まりを告げる音と一緒に、笑い声が全校に響き渡った。
最後に耳に残ったのは、自分自身の喉から漏れる声だった。
「ひひ……ひひひ……」
読んでくださりありがとうございます。
よければ応援クリックお願いします。