幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

呪具記#05「自動書記の部屋」

古本屋の奥の部屋は、表の埃っぽい匂いとは違い、妙に湿っていた。蛍光灯が一本だけ、骨のように白く光っている。

大学の帰り、俺はここでアルバイトをしている。

最初は何人か学生バイトがいたが、気づけばみんな来なくなった。

「就活が忙しいらしい」「体を壊したんだと」――店長はそう言っていた。

気さくで世話焼きな人だ。弁当を分けてくれたり、「テスト前は休め」と気を遣ってくれたりする。

俺は素直にそういうものだと受け入れていた。疑う理由なんてなかった。

ただ一度だけ、妙なことを言われた。

「奥の部屋にある大事な本には触るなよ。あれは人を惑わせる」

冗談めかして笑っていたが、目だけは笑っていなかった。

それでも俺は深く考えなかった。

その日、奥の棚で紐で固く縛られた古いノートを見つけた。

背表紙にはかすれた文字で「自動書記」とある。

店長の言葉が一瞬よぎったが、好奇心の方が勝った。

紐を解いて開くと、白紙のはずのページに赤い文字がにじんだ。

――なくした財布はポケットに戻っている。

まさかと思いながら探ると、確かになくしたはずの財布が入っていた。

二度目に開いたときは、試験のヤマが書かれていた。

その通りに覚えた問題が出題され、俺は楽に点を取れた。

三度目はこうだ。

――明日、好きな子と二人きりになれる。

偶然が重なり、現実になった。笑いが止まらなかった。

読むたびに良いことが起きる。

小さな幸運から大きな幸福へと膨らんでいく。

これがあれば人生は思い通りにできる――そう信じた。

けれど持ち帰る気にはならなかった。

もし店長に見つかれば叱られるに違いない。

あの人の気のよさを裏切るのは嫌だった。

だから俺は、いつもこの奥の部屋でだけノートを開いた。

だがある夜、赤字は不意に冷たく変わった。

――俺へ。後ろを見ないで。

蛍光灯が揺れた。床下から湿った吐息が滲み出す。

紙を舐めるような音。背筋が凍る。

それでも指は止まらなかった。

幸福の余韻に、抗えなかった。

「おーい、大丈夫か」

扉の向こうから店長の声がした。

救われた気がして、慌てて扉を開けた。

懐中電灯の光を手に、店長が心配そうに覗き込む。

「暗かったろ。大丈夫か?」

相変わらず気のいい声。

だが机の上のノートが勝手に開き、赤い字が浮かんだ。

――また一冊、頁が厚くなる。

意味がわからず固まる俺に、店長が歩み寄った。

「……店長、この本……なんなんですか」

「触ったんだな」

低い声に変わった。

「どうして……俺にこんな未来がわかるんですか」

店長はにやりと笑い、答えた。

「簡単さ。お前らが書いた未来を、俺が読んでるだけだ」

「書いた? 俺が?」

「財布も、試験も、恋も――全部お前が書いた。血でな」

床下から白く裂けた手が伸び、俺の足首を掴んだ。呻き声が重なる。

「これ……誰の……」

「お前の先輩たちさ。みんな同じように幸せをもらって、最後は“書き手”になった」

「じゃあ……店長は、どうして取り込まれないんですか」

「俺は読むだけだからだよ」店長の目が闇に光った。

「書くのは若いお前ら。未来は全部ここに積もっていく。俺はその頁を読んで、先回りしてるだけ。血は流さない。俺は喰われない」

気のいい顔のまま、言葉は底冷えするほど冷たかった。

肩に置かれた手が骨に染み込む。

指が勝手に赤字を刻む。

 

 

――助けて。

――いやだ。

――やめろ。

書けば書くほど赤は濃く、頁は増える。

最後の一枚に、すでにこう書かれていた。

――○○(俺の名前)。ここで交代。

犠牲者の手が一斉に俺を引きずり込む。

皮膚が裂け、紙の繊維に変わっていく。

「安心しろ。すぐに慣れる。みんなそうだった」

店長は優しげに微笑んだ。

視界が赤に染まる直前、声だけが残った。

「次は大学の掲示板にでも貼るか。“本好きの学生歓迎”ってな」

扉が静かに閉じ、奥の部屋は再び沈黙した。

机の上には新しい表紙が生まれ、そこには俺の名前と赤黒い染みが滲んでいた。


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