幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

幽譚録#05「棚の中の同居人」

田中は古い木造校舎の理科室に足を踏み入れた。三週間の教育実習で、ここが彼の担当教室になる。

埃っぽい空気が鼻をついた。窓から差し込む午後の光が、備品棚の上に積もった埃を踊らせている。机の上には前任者が残したのか、試験管やビーカーが雑然と並んでいた。

「まずは整理整頓からだな」

田中は備品棚に向かった。高さ二メートルほどの古い木製の棚で、ガラス扉の向こうに薬品瓶や実験器具がぎっしりと詰め込まれている。扉には古い真鍮の取っ手がついていて、鍵穴もあったが鍵は見当たらない。

扉を開けると、かび臭いにおいが鼻についた。棚の奥は薄暗く、何があるのかよく見えない。田中は手探りで奥の方に手を伸ばした。

その時、指先が何か柔らかいものに触れた。

「うわっ」

慌てて手を引っ込める。恐る恐る懐中電灯で照らしてみると、古いぬいぐるみのようなものが棚の奥に押し込まれていた。よく見ると、小さな人形だった。薄汚れた白いワンピースを着て、黒い髪がボサボサになっている。

「なんでこんなところに…」

田中は人形を取り出そうとしたが、なぜか躊躇した。そのまま扉を閉めて、その日の作業を終えた。

翌日、理科室に来ると違和感があった。

昨日確実に机の右端に置いたはずの試験管立てが、左端に移動している。記憶違いかもしれないと思ったが、妙に気になった。

備品棚を見ると、昨日は閉めたはずの扉が少し開いている。中を覗くと、あの人形が昨日より手前に出ているような気がした。

「掃除の人が入ったのかな」

そう自分に言い聞かせて、授業の準備を始めた。しかし、気になって仕方がない。何度も備品棚の方を振り返ってしまう。

三日目。またも物の位置がずれていた。

今度はビーカーが一列ずつ右にずれている。まるで誰かが一つずつ丁寧に動かしたかのように。そして人形は、さらに棚の手前に移動していた。今では扉のすぐ内側にいる。

人形の顔がこちらを向いているような気がした。昨日は横向きだったはずなのに。

田中の手が震えた。人形に近づくのが怖くなっていた。でも、これ以上放置するわけにもいかない。

「おい、誰かいるのか?」

理科室に向かって声をかけてみたが、返事はない。当然だった。この校舎は廃校になって五年。生徒どころか、管理人も滅多に来ない。

四日目。

備品棚の扉が完全に開け放たれていた。そして人形は棚の外、机の上に座っていた。

田中の血の気が引いた。人形の黒い瞳がじっとこちらを見ているような錯覚に陥る。小さな口元が、かすかに笑っているようにも見えた。

「誰の仕業だ?」

声が裏返った。しかし、この校舎に入れるのは田中だけのはずだ。鍵は田中が管理している。

人形を棚に戻そうとして手を伸ばしたが、触れる寸前で手を止めた。人形の体温を感じたような気がしたのだ。プラスチックのはずなのに、まるで生きているかのように温かい。

五日目。

人形は床に落ちていた。机から転がり落ちたのかもしれない。だが、落ちた場所が妙だった。まるで歩いて移動したかのように、教室の中央付近にぽつんと座り込んでいる。

田中は震え声で独り言をつぶやいた。

「もう限界だ。処分しよう」

人形を拾い上げると、ずっしりとした重みがあった。こんなに重かっただろうか。そして確かに体温がある。人形の顔を見ると、唇がわずかに動いたような気がした。

慌てて備品棚に押し込む。扉を勢いよく閉めた瞬間、中から小さな声が聞こえたような気がした。

「おかえり…」

田中は耳を疑った。聞き間違いに違いない。

六日目。

備品棚の前に立つと、中から規則的な音が聞こえてきた。

コンコン。コンコン。

誰かがノックをしている。

「まさか…」

恐る恐る扉を開けると、人形が立っていた。小さな拳で扉を叩いているような格好で。

田中は金切り声を上げた。慌てて扉を閉め、椅子を持ってきて扉の前に置く。もう逃げよう。教育実習なんてどうでもいい。

しかし、扉の向こうからノックが続く。だんだん激しくなっていく。

コンコンコンコン!

「やめろ!」

田中は叫んだ。その時、ノックが止んだ。

ほっとした瞬間、背後から小さな声がした。

「やっと気づいた?」

振り返ると、人形が教室の真ん中に立っていた。いつの間に出てきたのか。扉は閉まったままなのに。

人形がゆっくりと田中に近づいてくる。小さな足音がペタペタと床に響く。

「田中君は三年前に死んだのよ」

人形の声が急にはっきりした。子供の声から、大人の女性の声に変わっている。

「交通事故で。この学校の前の道路で」

田中の足が止まった。記憶の奥で何かがちらついている。

「あなたが教育実習に来るはずだった学校よ。でも来ることはできなかった。死んでしまったから」

人形の黒い瞳が田中を見つめている。

「私は田中美香。あなたの婚約者だった」

田中の体が震えた。美香。確かに婚約者がいた。でも顔が思い出せない。なぜ?

「あなたの魂がこの学校に迷い込んで、私を人形だと思い込んでいるの」

田中は自分の手を見た。透けている。向こう側の机が見える。

「本当の人形は…」

田中は振り返った。備品棚の鏡に映る自分を見て、息を呑んだ。

そこには男性の人形が立っていた。学生服を着て、黒い髪の短い人形が。

「本当の人形は、あなただったのよ」

美香の声が後ろから聞こえる。田中は鏡の中の自分を見つめた。プラスチックの顔。動かない表情。空洞の瞳。

記憶が蘇ってきた。雨の日の交通事故。教育実習の前日。美香との約束。

「私はあなたを迎えに来たの。もう迷わないで」

田中は振り返った。美香が微笑んでいる。生前と同じ、優しい笑顔で。

「一緒に行きましょう」

田中は頷いた。そして気づく。自分が動く度に、関節がギシギシと音を立てることに。

備品棚の中に戻ると、そこは暖かかった。美香が隣に座っている。

「ずっと待ってたの」

美香の手が田中の頬に触れる。プラスチック同士がぶつかる音がした。

 

 

翌日、管理人が理科室を見回った時、備品棚の中に二体の人形が仲良く並んでいるのを見つけた。男女の人形で、まるで生きているかのようにリアルだった。

管理人は首をかしげながら、「いつの間にこんな精巧な人形が…」とつぶやいて、扉を閉めた。

棚の中で、二つの小さな笑い声が響いていることに、管理人は気づかなかった。


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