幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

妖異抄#04「灯りの誘い」

老人は杖を突きながら、墓地の石段を一歩ずつ登った。膝の痛みが夜更けの冷気に響く。

月のない夜だった。懐中電灯の薄い光だけが、苔むした墓石の影を浮かび上がらせる。妻の墓参りを欠かしたことは一度もない。五十年間、毎月十五日の夜に。

「また来たよ、花江」

老人は墓前に座り込み、線香に火を点けた。煙が立ち上る。いつものように妻への報告を始めようとしたとき、視界の端で何かが光った。

振り返ると、墓地の奥で青白い光が揺れている。

鬼火だった。この歳になるまで一度も見たことがなかった現象に、老人は息を呑んだ。光は手のひらほどの大きさで、地面から一メートルほど浮かんでいる。

ゆらりゆらりと規則正しく揺れていた。

老人は立ち上がり、光に近づいた。杖の音が石畳に響く。近づくにつれ、光の輪郭がはっきりしてくる。美しかった。幻想的で、この世のものとは思えない神秘性があった。

光は墓地の最奥部、古い地蔵の前で揺れている。老人がさらに近づくと、足元に古い卒塔婆が散らばっているのに気づいた。文字は薄れているが、かろうじて読める。

「嬰児供養」

 

 

この地蔵は水子地蔵だった。昔から、生まれることのできなかった子供たちを弔う場所として使われていた。老人は背筋が寒くなった。

光の動きが変わった。

ゆらりゆらり、ゆら、ゆらり

最初は穏やかだったリズムが、微妙にずれ始めた。まるで複数の意識が重なり合っているかのように。

老人は立ち止まった。光の中に、小さな影がちらちらと見える気がした。子供の手のような、足のような。無数の小さな魂が、一つの光の中でもがいているのではないか。

ゆらり、ゆら、ゆらりり、ゆら。

リズムはさらに乱れていく。調和を失った複数の鼓動が重なり合い、不協和音のような動きになっていた。光の中で、生まれることのできなかった子供たちが、それぞれの想いで揺れているのだ。

「おかしいな」

老人は呟いた。水子の霊は通常、静かに成仏するものではなかったか。なぜこれほど激しく、乱れているのか。

光は地蔵の周りを回り始めた。

ゆら、ゆらりり、ゆらり、ゆ、ゆらりりり。

完全に狂ったリズムで、光は螺旋を描くように回転している。老人の心臓が早鐘を打ち始めた。これは怨念だ。生まれることを許されなかった無数の魂の、この世への執着が形になったものだ。

老人は後ずさりした。足がもつれ、墓石に手をついた。冷たい石の感触が現実を思い出させる。

光が止まった。

完全に静止して、老人を見つめているような気がした。光に視線などあるはずがないのに、確実に見られている感覚があった。

老人は恐怖した。五十年間、この墓地に通い続けて初めて感じる恐怖だった。妻の墓に背を向けるのは申し訳なかったが、もうここにいてはいけない気がした。

老人は踵を返した。杖を突いて急いで石段を下りようとする。

背後で光が動き出した。音はしないが、気配でわかる。追ってきている。

老人は振り返った。光は宙に浮いたまま、ゆっくりとこちらに近づいてくる。リズムはさらに狂っていた。

ゆ、ゆらりりりり、ゆ、ゆ、ゆらりりりりりり。

痙攣するような動きで、光は老人との距離を縮めてくる。老人は必死に石段を下った。膝の痛みなど忘れていた。生きるか死ぬかという本能が体を動かしている。

墓地の入口が見えてきた。あと少しで公道に出られる。光が近づいてくる気配は相変わらずあったが、老人は振り返らなかった。

石段を下り切り、墓地を出た瞬間、光の気配が消えた。

老人は振り返った。墓地の中に光は見えない。ただの暗闇があるだけだった。

「幻覚だったのか」

老人は安堵の息をついた。歳のせいで幻覚を見るようになったのかもしれない。そう思うことで心を落ち着かせようとした。

家に帰る道すがら、老人は今夜のことを忘れようと決めた。妻には申し訳なかったが、もう夜の墓参りはやめよう。昼間に来ればいい。そう決心して、老人は家路を急いだ。

翌朝、老人は目を覚ました。よく眠れたような気がしない。夢うつつの中で、あの青白い光を見続けていた気がする。

朝食を取りながら、老人は昨夜のことを思い返していた。やはり幻覚だったのだろう。疲れていたのかもしれない。

そのとき、玄関のチャイムが鳴った。

老人は立ち上がり、玄関に向かった。ドアを開けると、見知らぬ中年の男性が立っていた。作業服を着ており、何かの業者のようだった。

「おはようございます。墓地の管理をしております田中と申します」

男性は丁寧に頭を下げた。

「昨夜、お客様が墓参りをされていたとのことで、お話があってまいりました」

老人の血が凍った。昨夜のことを誰が見ていたというのか。

「実は昨夜、墓地で異常な現象が起きておりまして」田中と名乗る男性は続けた。「お客様に何かご不便をおかけしなかったでしょうか」

「異常な現象?」

「はい。監視カメラに不思議な光が映っておりまして。鬼火のような現象が記録されています」

老人は唖然とした。監視カメラ。そんなものがあったのか。

「その光なのですが」田中は言葉を区切った。「お客様を追いかけるような動きをしていまして」

老人の膝が震え始めた。

「それで、お客様にお聞きしたいのですが」田中の表情が変わった。笑っているような、いないような、曖昧な表情になった。

「その光を、まだ見えますか?」

老人は振り返った。自分の背後、廊下の奥に青白い光が揺れていた。

ゆ、ゆらりりりりりり、ゆ、ゆ、ゆらりりりりりりりり。

狂ったリズムで、光は老人の家の中で踊っていた。

老人は田中を見た。男性はもういなかった。玄関には誰もいない。ドアは最初から開いていなかったかのように、静かに閉まっている。

光が近づいてくる。家の中に、逃げ場などなかった。


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