幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

幽譚録#06「上のお兄ちゃん」

築百年は経つであろう古民家に引っ越してきた田中家。夫の健一、妻の美和、そして三歳の息子翔太の三人家族だった。

古い木造建築の家は趣があったが、所々に老朽化の痕跡が見られた。きしむ床板、隙間風の入る窓、そして二階の奥にある小さな屋根裏への入り口。

「お父さん、あそこの部屋は何?」

翔太が指差したのは、天井に取り付けられた四角い木の蓋だった。

「ああ、あれは屋根裏だよ。物置だから危ないし、埃だらけだから上がっちゃダメだぞ」

健一は脚立を持ち出し、重い蓋を押し上げて屋根裏を覗いてみた。懐中電灯の光が薄暗い空間を照らす。

埃っぽく、古い家具や段ボール、昔の持ち主が残したであろう雑多な品々が雑然と置かれている。梁が低く、大人が立つのも窮屈な狭い空間だった。裸電球がひとつぶら下がっているが、スイッチがどこにあるのかわからない。

「特に問題なさそうだな。ネズミが住み着いてるかもしれんが」

健一はそう呟き、重い蓋を閉じた。

引っ越しから一週間が過ぎた頃、妻の美和が小さな異変に気づいた。

「あの子、最近よく天井を見上げて独り言を言ってるのよね」

夕食の支度をしながら、美和は健一に話しかけた。

「翔太が?まあ、子供なんてそんなものだろ。新しい環境で少し興奮してるんじゃないか」

健一は新聞から目を上げずに答えた。確かに翔太は最近、リビングで一人遊びをしている時、よく天井を見上げて笑っていた。

その夜、翔太が突然手を振りながら話し始めた。

「お兄ちゃん、今日もいるの?うん、翔太も元気だよ」

美和は微笑ましく思いながら聞いた。

「翔太、誰とお話ししてるの?」

「上のお兄ちゃんだよ。いつもあそこにいるんだ」

翔太は真剣な表情で天井を指差した。その指の先には、まさに屋根裏への入り口があった。

「想像のお友達ね。新しい家に慣れないから、心の支えが欲しいのかも」

美和は健一に小声で話したが、健一の箸が止まった。上から、かすかに足音のような音が聞こえたような気がしたのだ。

古い家だから木が軋むのだろう、そう自分に言い聞かせた。

翌朝、健一は念のためもう一度屋根裏を調べた。しかし前日と変わった様子はない。ネズミの糞らしきものが少し増えているような気もしたが、それだけだった。

だが、その夜から毎晩のように音が聞こえるようになった。

ゴトリ、ゴトリ。

規則正しく響く、まるで誰かが屋根裏を歩き回っているような足音。時には引きずるような音も混じった。

「美和、屋根裏の音、聞こえるか?」

「え?特に何も...あ、でも時々軋む音はするわね。古い家だから仕方ないんじゃない?」

美和には健一ほど明確には聞こえていないようだった。

「翔太、お兄ちゃんは夜も起きてるの?」

美和が何気なく息子に聞くと、翔太は当然のように答えた。

「うん。お兄ちゃんは夜の方が元気なの。昼間はお疲れだから寝てるんだって」

健一の背筋に氷のような冷たいものが走った。三歳の子供にしては、あまりにも具体的すぎる答えだった。

その後も翔太の「お兄ちゃん」との会話は続いた。

「お兄ちゃん、何歳なの?」

「えーっと、九つなんだって。翔太より大きいね」

「お兄ちゃんの好きな食べ物は?」

「お母さんの作ったオムライス。でももう食べられないから悲しいって」

美和は翔太の想像力の豊かさに感心していたが、健一は日増しに不安を募らせていった。

翔太の話す「お兄ちゃん」の詳細があまりにもリアルで、まるで実在する人物を描写しているかのようだった。

三日後の深夜、屋根裏からの音がいつもより激しくなった。

ドンドンと何かを叩くような音、重いものを引きずるような音。まるで誰かが助けを求めているかのようだった。

「パパ、お兄ちゃんが何かお話ししたいみたい」

翔太が両親の寝室に駆け込んできた。三歳児とは思えない冷静な表情で、恐怖の色は微塵もなかった。

「翔太、お兄ちゃんって何て言ってるの?」

美和の声は震えていた。さすがに彼女も異常事態に気づき始めていた。

「『下の人たち、やっと気づいてくれた?』って。それから『もうすぐみんなで一緒にいられるね』って言ってる」

翔太の無邪気な笑顔が、この状況では異様に見えた。

健一は震える手で懐中電灯を握りしめ、脚立を設置した。もう逃げることはできない。真実を確かめる必要があった。

重い屋根裏の蓋を恐る恐る押し上げると、懐中電灯の光が薄暗い空間を切り裂いた。

奥の方で、何かがゆっくりと動いた。

健一は身を乗り出す。古い家具の隙間から、人の形をした影がこちらを振り返った。

腐敗した甘ったるい匂いが鼻を突く。

「あ、やっと来てくれたんだ」

影は擦れた子供の声で言った。首が不自然な角度に曲がり、眼球が落ち窪んで空洞のようになっている。口は耳まで裂けたような笑みを浮かべていた。

 


「僕、ずっと一人だったんだよ。でも翔太君が来てくれて、とっても嬉しかった」

健一は血の気が引くのを感じた。慌てて屋根裏から下りようとしたが、恐怖で足がすくみ、脚立ごと倒れてしまった。

その瞬間、屋根裏から乾いた笑い声が響いた。

「痛くない?大丈夫?僕の所に来てくれるの?」

美和が健一を起こそうとした時、翔太が嬉しそうに手を叩いた。

「お兄ちゃん、すごく喜んでる。家族みんなで一緒にいられるって」

翌朝、健一は一睡もできずに家を出た。昨夜見た光景が頭から離れない。あれが幻覚だったと信じたかったが、腐敗臭はまだ鼻の奥に残っていた。

美和は翔太を連れて実家に避難させ、健一は一人で真相を探ることにした。まずは市役所で古民家の登記簿を調べたが、十二年前に前の住人が転出した記録しか分からなかった。

次に近所への聞き込みを始めた。しかし多くの住人は「よく知らない」「昔の話は...」と口を濁した。

最後に訪れた商店街で、長年八百屋を営んでいる老人だけが重い口を開いてくれた。

「ああ、あの家ね...実はな、十二年前に悲しい事件があったんだよ」

「事件、ですか?」

「小学三年生の男の子が、屋根裏で首を吊って死んだんだ。名前は確か...太一君だったかな」

健一の顔から血の気が引いた。

「いじめられてたらしくてね。学校にも家にも居場所がなくて、最後は屋根裏に隠れるようになったんだと。でも結局...」

老人は首を振った。

「両親はその後引っ越して、それからずっと空き家だった。不動産屋は何も言わなかったのかい?まあ、言うわけないか」

健一は家に戻ると、すぐに美和に事実を話した。美和は真っ青になった。

「今夜はホテルに泊まりましょう。明日、引っ越し業者を呼んで」

その夜、一家は近所のホテルに避難した。

十階建てのビジネスホテルの七階、清潔で近代的な部屋。古民家とは対照的な安全な空間。

「これで安心ね。もうあの音も聞こえないし」

美和はほっと息をついて、初めて笑顔を見せた。

しかし翔太だけは、なぜか窓の外をじっと見つめていた。

「翔太?どうしたの?」

「お兄ちゃん、ついてきた」

翔太の小さな指が、ホテルの窓を指していた。

窓の外、街灯に照らされた向かいのビルの屋上に、小さな人影がこちらを見下ろしていた。首が不自然に傾き、口が耳まで裂けた笑みを浮かべて。

「お兄ちゃん、とっても寂しいんだって。翔太ともっと一緒にいたいんだって」

翔太の声に、もう恐怖はなかった。むしろ、心から嬉しそうですらあった。

「お兄ちゃんが言うの。『今度は絶対に一人にしない』って」

「翔太?」

美和が振り返ると、翔太の首が、ゆっくりと不自然な角度に傾いていた。三歳児の首が、あり得ない方向に回転している。

その瞬間、部屋の電気が消えた。

暗闇の中で、乾いた子供の笑い声が二つ、重なるように響いていた。

窓の外では、街灯が一つずつ消え始めていた。


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