幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

都市怪談録#07「覗いた代償」

廃村への道は、雑草が腰の高さまで伸びていた。

「マジでこんなとこ来んの?」

大輔が文句を言いながら、蜘蛛の巣を払いのける。その後ろを、健太、美咲、そして俺が続いた。

夏休み最後の冒険だった。地元で有名な「覗くと死ぬ井戸」を確かめに来たのだ。ネットの心霊スポット掲示板に、この村の井戸のことが書いてあった。「覗いた者は一週間以内に必ず死ぬ」と。

「ただの都市伝説だって」

健太が笑う。俺もそう思っていた。

村は想像以上に荒れ果てていた。倒壊寸前の家屋が並び、屋根は崩れ、壁には蔦が這っていた。誰も住んでいない。誰も来ない。静寂が重く、空気が淀んでいた。

井戸は村の中心にあった。

古びた石組みの井戸。直径は一メートルほど。周囲に柵はなく、ぽっかりと口を開けている。縁の石は黒ずみ、苔が生えていた。

「これか」

大輔が井戸を覗き込もうとする。

「やめときなよ」

美咲が止める。だが大輔は笑って首を振った。

「何が死ぬだよ。ただの井戸じゃん」

そう言って、大輔は井戸の縁に手をかけ、中を覗き込んだ。

五秒ほど黙っていた大輔が、顔を上げる。

「暗くて何も見えねえ」

大輔は肩をすくめた。何事もなかった。俺たちは安堵の息を漏らす。

「な? 都市伝説だって言ったろ」

健太も覗き込んだ。続いて美咲も。

「本当に何もないね」

美咲が拍子抜けした顔で言う。

俺も覗いた。

井戸の中は、闇だった。底が見えないほど深い、濃密な闇。冷たい空気が這い上がってきて、顔に纏わりついた。かすかに水の匂いがした。

それだけだった。

「帰ろうぜ。無駄足だった」

大輔が歩き出す。俺たちも後に続いた。

村を出るまで、誰も何も言わなかった。

家に帰ってから、それは始まった。

耳元で、ささやく声が聞こえた。

「見たな」

振り返る。誰もいない。

「見たな」

また聞こえる。右耳の奥で、湿った声がささやく。心臓が早鐘を打つ。

それは止まらなかった。

寝ているとき、食事中、学校の授業中。常に耳元でささやき続ける。

「見たな。見たな。見たな」

三日目、大輔から電話があった。

「お前も聞こえるか? あの声」

震える声だった。いつもふざけている大輔が、泣きそうな声で言った。

「聞こえる」

俺は答えた。

「俺、もう限界だ。ずっと聞こえるんだよ。眠れねえ」

健太も、美咲も、同じだった。四人全員が、あの声に苦しめられていた。

四日目の夜、大輔が首を吊った。

自宅の部屋で、ベルトを使って。遺書はなかった。

葬式で、健太と美咲に会った。二人とも痩せ細り、目の下に隈ができていた。

 


「声、まだ聞こえる」

健太が虚ろな目で言った。

「私も」

美咲が泣きながらうなずく。

「見たな。見たな。見たな」

葬式の間も、声は止まらなかった。

俺たちは必死に調べた。どうすれば止まるのか。ネットを漁り、図書館で郷土資料を読み、神社を訪ねた。

そして見つけた。

「井戸に謝りに行けば許される」

古い掲示板の書き込みだった。投稿者は匿名だったが、具体的に書いてあった。「井戸の前で謝罪すれば、呪いは解ける。ただし覗いてはいけない」

希望が見えた。

俺たちは再び廃村へ向かった。六日目の昼だった。

井戸の前に立つ。あの日と変わらない、黒ずんだ石組みの井戸。

「ごめんなさい」

美咲が井戸に向かって頭を下げる。健太も続いた。

「すみませんでした」

俺も頭を下げた。

その瞬間、声が止んだ。

耳元のささやきが、ぴたりと消えた。

「止まった……!」

健太が叫ぶ。美咲が泣き崩れる。

「助かった……」

安堵の涙が溢れる。俺たちは抱き合って泣いた。

大輔は死んだが、俺たちは助かった。そう思った。

帰り道、美咲が言った。

「大輔にも教えてあげたかったね」

その言葉に、胸が締め付けられる。

家に着いて、シャワーを浴びた。服を着替え、ベッドに横になる。久しぶりの静寂だった。声のない世界が、こんなに穏やかだとは思わなかった。

眠りに落ちる直前、耳元でささやきが聞こえた。

「見たな」

目を見開く。

「見たな。見たな。見たな。見たな」

声が戻ってきた。以前より多く、以前より近く、以前より執拗に。

携帯が鳴った。健太からだった。

「また聞こえる! なんでだよ!」

健太の絶望した声。

美咲からもメッセージが来た。「助けて」とだけ書いてあった。

謝罪は無意味だった。いや、違う。

俺たちは井戸の前で、もう一度、井戸の中を見てしまったのだ。

頭を下げたとき、無意識に視線を井戸に向けた。ほんの一瞬、井戸の縁が視界に入った。それだけで十分だった。

二度目に覗いた者は、一週間を待たずに死ぬ。

掲示板の続きには、そう書いてあった。

七日目の朝、健太が自宅の浴槽で溺死体で見つかった。水深三十センチの浴槽で、どうやって溺れたのか誰にも分からなかった。

美咲は同じ日の午後、マンションから飛び降りた。

夜、俺は自分の部屋にいた。

「見たな。見たな。見たな。見たな。見たな」

無数の声が、頭の中を埋め尽くす。

窓の外を見る。月が出ていた。

部屋の隅に、黒い影が立っていた。

井戸の形をした影が、じっとこちらを見ていた。

いや、見ているのではない。

俺を、呑み込もうとしていた。

翌朝、母が部屋に入ってきたとき、俺はもういなかった。

ベッドには誰も寝ていなかった。窓は閉まっていた。ドアも施錠されていた。

部屋には、湿った水の匂いだけが残っていた。


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