幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

妖異抄#06「消失点」

「ここ、本当に入っていいのかな」

美咲が不安そうに呟いたとき、すでに俺たち探検部の三人は廃屋の玄関を開けていた。蝶番が錆びついた音を立て、黴臭い空気が一気に流れ込んでくる。

「大丈夫だって。村の人も誰も来ないって言ってたし」

部長の健太が懐中電灯を点けながら中へ入る。

俺たちは地元の高校の探検部だ。この一年で町中の廃ビルや古い隧道、使われなくなった工場なんかを回ってきた。でも最近はどこも似たような景色で、正直飽きていた。もっと違う刺激が欲しい。そんな話をしていたとき、健太が見つけてきたのがこの廃屋だった。

村はずれの廃屋。三十年前に一家が忽然と消えたという話だけが残っている。窓という窓は板で塞がれ、玄関から差し込む光だけが頼りだった。

「うわ、マジで何もないな」

健太が残念そうに声を上げる。確かに家具も何もない。ただの空っぽの家だ。

「二階、行ってみようぜ」

健太の提案で、俺たちは階段を登った。軋む音が妙に大きく響く。

二階には四つの部屋があった。どれも同じように何もない。最後の部屋を開けたとき、健太が「お、これ」と声を上げた。

部屋の隅に、古い鏡台が一つだけ残されていた。

「何でこれだけ残ってんだろ」

美咲が不思議そうに近づく。鏡の表面は埃で曇っているが、割れてはいなかった。

「触らない方がいいんじゃない?」

美咲の声には明らかな恐怖が滲んでいた。

「迷信だろ。ちょっと見てみようぜ」

健太が袖で鏡の表面を拭う。埃が舞い上がり、俺たち三人の姿が薄ぼんやりと映り込んだ。

そのとき、美咲が「あれ?」と首を傾げた。

「健太、顔に何か付いてるよ」

「え?」

健太が鏡を覗き込む。俺たちも一緒に見た。確かに健太の顔に、薄い影のようなものが浮かんでいる。いや、違う。よく見ると、それは影ではなく──

「輪郭が、滲んでる?」

美咲の声が震えている。健太の顔の輪郭が、まるで水彩画を水で流したように曖昧になっていた。目も鼻も口も、少しずつぼやけていく。

「おい、やめろよ。そういうの」

健太が笑いながら鏡から離れようとした。だが彼の顔を見て、俺たちは息を呑んだ。

鏡の中と同じように、現実の健太の顔も滲み始めていた。

「嘘だろ」

俺が後ずさる。健太は自分の顔を両手で触った。

「おい、何だよこれ。何か、触ってるのに感覚がおかしい」

彼の声は普通だった。だが顔は──目鼻の区別がつかなくなっていく。皮膚の表面がのっぺりと平らになり、まるで粘土を均したように滑らかになっていく。

 

 

「健太!」

美咲が叫んだ。だが健太の顔からは、もう表情が読み取れなかった。目があったはずの場所も、口があったはずの場所も、すべて平坦な肌色の面になっている。

「見えない。何も見えない」

健太が両手を前に突き出した。のっぺらぼうになった顔で、彼はよろよろと歩き出す。

「逃げよう!」

俺の声に、美咲と俺は階段へ向かって走り出した。だが美咲が「待って、健太を」と振り返る。

健太は鏡台の前で動きを止めていた。そして両手で自分の顔を、顔があったはずの場所を掻きむしり始めた。爪が肌を削る音が聞こえる。だが血は出ない。ただ白い、何もない表面が広がっているだけだ。

「健太!」

俺が健太の腕を掴もうとした瞬間、健太の体が崩れた。まるで中身のない着ぐるみのように、ぺしゃんと床に落ちる。服だけが残り、中に人間がいた痕跡すら残っていなかった。

美咲が悲鳴を上げた。俺たちは階段を転がるように降りた。玄関まであと少し。外の光が見える。

だが玄関に辿り着いたとき、ドアは閉まっていた。

「開かない!」

俺がドアノブをガチャガチャと回すが、びくともしない。

「窓だ、窓を壊せ!」

俺が板で塞がれた窓に体当たりする。だが板は外から釘で打ち付けられているのか、まったく動かない。

「ねえ、私の顔」

美咲の声が絶望に染まっていた。

美咲は壁に寄りかかって座り込んでいた。懐中電灯の光が彼女の顔を照らす。輪郭が滲み始めていた。

「やだ、やだやだやだ」

美咲が顔を両手で覆う。だが指の間から見える肌は、すでに平らになり始めていた。

「鏡を、鏡を見たから」

美咲が呟く。そして彼女の頬が、すでに微かに平らになっている。彼女は泣いていたはずなのに、涙の跡が消えていく。表情が消えていく。

俺は自分の顔を触った。鼻の感覚がない。目を閉じたのか開いているのか分からない。頬を掴もうとしても、ただ平らな何かがあるだけだ。

「ごめん、美咲。俺も」

声だけが出る。口がないはずなのに、声は聞こえる。

美咲の体が、健太と同じように崩れた。服だけが床に落ちる。次第に自分の輪郭も失われていく。

俺は──俺の意識はまだある。だが体の感覚はもうない。自分がどこにいるのかも分からない。見えない。聞こえない。触れない。

ただ、分かることが一つだけあった。

俺はまだ、あの廃屋の中にいる。

そして、これから誰かが来るのを待っている。

次に鏡を覗き込む誰かを。

外から、足音が聞こえた気がした。若い声がする。

「ここ、例の廃屋だよな」

「入ってみようぜ」

ドアが、きしむ音を立てて開いた。


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