幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

学苑怪談#05「転校初日」

私が新しい学校に転校したのは、九月の終わりだった。

クラスメイトたちは優しかった。休み時間になると、何人かが席に寄ってきて話しかけてくれた。昼休みには女子グループが一緒に食べようと誘ってくれて、放課後には図書委員の男子が校内を案内してくれると言った。

「じゃあ、最後に視聴覚室を見せるね」

彼は三階の廊下の突き当たりにある、重い扉の前で立ち止まった。

「ここ、あんまり使わないんだけど」

扉を開けると、カビ臭い空気が流れ出てきた。薄暗い部屋の中には、古びたプロジェクターと並んだパイプ椅子。奥の壁には黒板があり、その横に小さな機材室のドアが見えた。

「一応、映画鑑賞とかで使うことになってるんだけどね」

彼は照明のスイッチを探したが、見つからなかったようだ。廊下の明かりだけが、部屋の入口付近をぼんやりと照らしていた。

その時、機材室のドアがゆっくりと開いた。

中から、女子生徒が一人出てきた。制服を着ている。この学校の生徒だ。彼女は私たちを見ると、にっこりと笑った。

 

 

「あ、新しい転校生?」

「え、ええ」

私は答えた。彼女の笑顔は明るかったが、なぜか目が笑っていなかった。

案内してくれていた男子が、固まったように動かなくなった。顔から血の気が引いていく。

「君、誰? 何してたの?」

声が震えていた。

「機材の整理」

女子生徒は軽く答えると、私の方へ歩いてきた。近づくにつれて、彼女の制服が少し古びていることに気づいた。生地が色褪せていて、襟の部分がほつれている。

「ねえ、一つ教えてあげる」

彼女は私の耳元で囁いた。

「この学校でね、絶対にやっちゃいけないことがあるの」

「な、何?」

「放課後、一人で視聴覚室に来ちゃダメ。来たら、帰れなくなるから」

彼女の息が、氷のように冷たかった。

男子生徒が震える声で言った。

「嘘だろ...制服、その制服...」

女子生徒はくすくすと笑うと、私たちの脇をすり抜けて廊下へ出て行った。足音が遠ざかっていく。

「ごめん、もう帰ろう」

男子生徒は蒼白な顔で、私の腕を引いた。階段を降りながら、彼は何度も後ろを振り返った。まるで、追いかけてくるものを警戒するように。

玄関まで来て、ようやく彼は息を吐いた。

「あのさ、今日のこと、誰にも言わない方がいい」

「でも、あれって...」

「言わない方がいい」

彼は繰り返すと、足早に帰って行った。

その夜、家に帰ってからも、あの女子生徒のことが頭から離れなかった。あの冷たい息。色褪せた制服。そして、笑っていない目。男子生徒が見せた、あの恐怖に歪んだ顔。

翌日、私は意を決して、クラスで隣の席の女子に声をかけた。彼女は昨日、昼休みに一緒にご飯を食べた子だ。休み時間、周りに誰もいないのを確認してから聞いた。

「ねえ、視聴覚室のこと、知ってる?」

彼女は箸を持つ手を止めた。

「どうして?」

「昨日、案内してもらった時に、変な女の子に会って」

「女の子?」

「機材室から出てきた。制服着てたんだけど、古くて、襟がほつれてて」

彼女の顔が強ばった。

「それ、もしかして...」

声を潜める。

「十年前に亡くなった先輩かも。視聴覚室で首を吊ったって」

背筋が凍った。

「本当?」

「写真、見たことある。昔の卒業アルバムに載ってた。たまに視聴覚室に出るって、ずっと噂になってるの」

だから、あの男子生徒は怯えていたのだ。彼も、その噂を知っていたのだろう。

その日から、私は視聴覚室に近づかないようにした。三階の廊下を通る時も、あの突き当たりの扉は見ないようにした。

でも、一週間後。

放課後、図書室で本を読んでいた私は、返却期限を過ぎた本があることに気づいた。今日中に返さなければならない。急いで図書室を出ると、もう校舎はほとんど人気がなかった。

図書室は三階にあった。返却ボックスに本を入れて、階段へ向かおうとした時。

廊下の突き当たり、視聴覚室の扉が、わずかに開いていた。

中から、微かに声が聞こえる。

「助けて」

女の声だ。

「誰か、助けて」

私は足が竦んだ。行ってはいけない。あの幽霊の罠かもしれない。

でも、声は切羽詰まっていた。本当に誰かが困っているのかもしれない。

「お願い、助けて」

私は震える足で、視聴覚室へ近づいた。

扉を開けると、あの薄暗い空間が広がっていた。プロジェクターとパイプ椅子。そして、機材室のドア。

ドアの隙間から、光が漏れていた。

「助けて」

声は機材室から聞こえてくる。

私はゆっくりとドアに近づき、ノブに手をかけた。冷たかった。

ドアを開けると、そこには。

血まみれの女子生徒が、倒れていた。

制服は真新しい。今の時代のものだ。彼女は頭から血を流していて、私を見上げた。見覚えがある。二年生の、バレーボール部の子だ。廊下ですれ違ったことがある。

「助けて、後ろから突き落とされて」

彼女は震える手で、機材室の奥を指差した。そこには、脚立が倒れていた。高い棚から物を取ろうとして、足を滑らせたのだろうか。それとも。

私は携帯を取り出して、救急車を呼んだ。彼女の傷を確認しようとした時、背後で扉が閉まる音がした。

振り返ると、視聴覚室の扉が閉まっていた。

そして、あの女子生徒が立っていた。色褪せた制服の。

「言ったでしょ。来ちゃダメだって」

彼女は笑った。

「これで、あなたも私たちの仲間」

私は叫んで、視聴覚室のドアへ走った。ドアノブを掴んで回したが、開かない。鍵がかかっている。

「開けて! 開けてよ!」

背後から、足音が近づいてくる。

その時、ドアが開いた。

廊下に飛び出すと、そこには用務員のおじさんが立っていた。

「どうした、そんなに慌てて」

「中に、怪我してる人が!」

用務員は視聴覚室を覗き込んだが、首を傾げた。

「誰もいないぞ」

私も中を見た。

確かに、誰もいなかった。機材室のドアも閉まっている。血の跡もない。倒れていたはずの脚立も、元の位置にきちんと立てかけられていた。

「幽霊でも見たか?」

用務員は笑った。

「この部屋、そういう噂があるからな。もう帰りなさい」

私は震えながら頷いて、階段を降りた。玄関を出て、校門をくぐる。もう二度と、あの部屋には近づかない。

助かった。ただの幻覚だったんだ。

家に帰る途中、コンビニで飲み物を買った。レジで財布を出した時、店員が不思議そうな顔をした。

「お客さん、その制服」

「え?」

「うちの近くの学校じゃないですよね、それ」

私は自分の制服を見下ろした。

紺のブレザー。グレーのスカート。

いつもの制服だ。

「これ、近くの学校の制服ですけど」

店員は首を傾げた。

「いや、この辺の学校は緑のブレザーですよ。紺なんて」

私の心臓が、激しく鳴った。

家に帰って、鏡を見た。

制服は、確かに紺色だった。

でも、よく見ると。

襟の部分が、ほつれていた。

母が夕食の支度をしながら言った。

「転校先、もう慣れた? 明日で一週間でしょ」

「え? 一週間?」

「そうよ。来週の月曜で」

私は混乱した。今日は金曜日のはずだ。転校してから、もう二週間経っている。

「お母さん、今日は何日?」

「九月三十日よ」

九月三十日。

それは、私が転校した日だ。

窓の外を見ると、夕暮れの空が広がっていた。

でも、その空は、どこか色が違って見えた。

部屋に戻って、スマホを確認した。

カレンダーアプリを開くと、九月三十日。

でも、登録されているはずの友達の連絡先が、一つもなかった。

クラスメイトの名前も、先生の名前も、全部消えていた。

代わりに、知らない名前がずらりと並んでいた。

そして、一番上に。

「視聴覚室の住人たち」

というグループ名があった。

メンバーは十五人。

最後に追加されたのは、今日。

私の名前だった。

翌日のログには、もう一人。

「バレーボール部・二年」

という名前が追加される予定になっていた。

鏡をもう一度見た。

制服の襟のほつれが、さっきより大きくなっていた。

そして、鏡の中の私の目が。

笑っていなかった。


読んでくださりありがとうございます。
よければ応援クリックお願いします。