幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

学苑怪談#07「模型の心音」

夜の理科室で、新藤は採点作業をしていた。

コツ、コツ、コツ。

ペンを走らせる手が止まった。何か聞こえた気がした。

コツ、コツ、コツ。

音は人体模型の方から響いている。教室の隅に立つ、あの等身大の模型だ。昼間は生徒たちが面白がって触るが、夜は薄気味悪い存在でしかない。

新藤は椅子を引いて立ち上がった。音は止んでいる。気のせいだと思いたかった。

だが模型に近づくと、また聞こえた。

コツ、コツ、コツ。

内側から叩くような音。プラスチックの空洞を何かが叩いている。新藤の背筋に冷たいものが走った。

「誰かのいたずらか……?」

声が震えていた。模型の胸部は開閉式になっている。新藤は恐る恐る手を伸ばし、胸のパーツを開いた。

中に紙が一枚、折り畳まれて入っていた。

広げると、それは心電図だった。黒いインクで波形が描かれている。だが、この波形は教科書に載っているような規則正しいものではない。波が乱れ、途切れ、最後は一本の直線になっている。

死を示す波形だ。

新藤の手が震えた。紙の下部に、小さな文字で何か書かれている。

『助けて』

コツ、コツ、コツ。

音が再び始まった。今度は激しく、必死に。新藤は後ずさった。これは何かの冗談だと思いたかった。だが音は止まらない。

「誰だ! 誰なんだ!」

新藤は叫んだ。模型を揺さぶった。だが中は空洞のはずだ。何も入っていない。入っているはずがない。

コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。

音は狂ったように激しくなった。新藤は模型を倒した。床に転がった模型の内側を覗き込む。

空っぽだった。

何もない。ただのプラスチックの空洞。だが音は聞こえている。確かに聞こえている。

新藤は息を荒くしながら、床に落とした紙を拾い上げた。

紙に描かれた心電図の波形が、動いていた。

「そんな、馬鹿な……」

インクが滲むように、新しい線が紙の上を這っていく。まるで生きているかのように、波形がリアルタイムで描かれ続けている。ただの紙のはずなのに。ただのインクのはずなのに。

そして波形は規則正しくなり始めた。乱れていた線が整い、正常な心拍のリズムを示し始めた。

新藤は安堵した。これで終わりなのだと思った。助かったのだと。

だが次の瞬間、紙の下部に新しい文字が浮かび上がった。

『ありがとう』

新藤の体が硬直した。

背後で、何かが立ち上がる気配がした。

振り向くことができなかった。振り向いてはいけないと本能が叫んでいた。

だが首が勝手に動いた。

模型が立っていた。倒したはずの模型が、新藤の背後に立っていた。

開いたままの胸から、赤黒い何かが溢れ出していた。プラスチックではない。生温かい液体が床に滴り落ちる音。

模型の目が新藤を見た。

空洞のはずの目に、何かが宿っていた。

「やっと、出られる」

模型が喋った。新藤の声で。

新藤は悲鳴を上げようとしたが、声が出なかった。喉が塞がれたように息ができない。

模型が一歩、近づいてきた。

新藤の体が動かない。金縛りのように固まっている。

模型は新藤の前に立ち、冷たいプラスチックの手を新藤の胸に当てた。

 

 

「ずっと待っていたんだ。誰かが開けてくれるのを」

新藤の胸が熱くなった。いや、熱いのではない。何かが侵入してくる感覚。模型の手が胸の中に沈み込んでいく。

「中は、狭かったよ」

新藤の視界が暗くなった。

最後に聞こえたのは、自分の心臓が止まる音だった。

翌朝、理科室で新藤が倒れているのが発見された。死因は心臓発作。机の上には採点途中の答案用紙と、一枚の紙。

それは心電図だった。波形が一本の直線で終わっている。

そして下部には、震える文字で書かれていた。

『助けて』

人体模型は、いつものように教室の隅に立っていた。

だが誰も気づかなかった。

模型の胸が、かすかに上下していることに。


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