幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

狂気譜#07「担当医の顔」

面会室の扉を開けると、母は窓際のパイプ椅子に座っていた。

「お母さん、調子はどう?」

母は振り向かずに答えた。

「ああ、来てくれたの。ありがとう」

声が小さい。いつもより元気がないように見えた。私は母の隣に座り、持ってきた果物の入った袋を膝に置いた。

「担当の先生、優しい人でしょ?江藤先生って」

母は頷いた。しかし、その表情は曇っていた。

「そうね。優しい先生よ」

「でも?」

「……いえ、何でもないの」

母は俯いたまま、自分の両手を見つめていた。爪の先が少し震えている。

私は気になったが、それ以上は聞かなかった。手術は成功したと聞いている。あとは経過観察だけだ。母の不安も、入院生活の疲れからくるものだろうと思った。

三日後、また面会に訪れた。

今度は母の表情が明るかった。窓の外を眺めながら、春の陽射しについて話してくれた。

「江藤先生がね、もうすぐ退院できるって」

「本当?よかったじゃない」

母は微笑んだ。しかし、その笑顔の奥に何か引っかかるものを感じた。

「ただ……」

母は言葉を切った。

「先生の目がね」

「目?」

「少し、違うの」

私は首を傾げた。母は小声で続けた。

「前に診察してくれた時と、違う気がするの。気のせいかもしれないけど」

私は笑って母の手を握った。

「疲れてるんだよ、お母さん。先生だって忙しいんだから、日によって印象も変わるでしょ」

母は頷いたが、不安そうな表情は消えなかった。

一週間後。

面会室に入ると、母は青ざめた顔で私を見た。

「あの人、違う」

「何が?」

「江藤先生。昨日と今日で、別人なの」

私は困惑した。母の精神状態が心配になってきた。

「お母さん、ちゃんと眠れてる?」

「聞いて。昨日は優しかったのに、今日は冷たいの。話し方も、声の高さも違う。それに……」

母は震える手で自分の頬を指した。

「ほくろの位置が変わってるの」

私は立ち上がった。

「先生に直接聞いてくるよ。何かの間違いだと思うから」

ナースステーションで江藤医師を呼んでもらった。

白衣を着た男性が現れた。四十代半ばくらいだろうか。穏やかな笑みを浮かべている。

「ご家族の方ですね。お母様の容態は安定していますよ」

私は江藤医師の顔を注意深く見た。左の頬に小さなほくろがある。

「先生、母が少し混乱しているようで……」

「ああ、それは術後によくあることです。ご心配なく」

江藤医師は私の肩を軽く叩いた。その手が、ひどく冷たかった。

翌日、私は母に会う前に、もう一度江藤医師に会った。

廊下ですれ違った江藤医師は、昨日と同じ白衣を着ていた。同じ顔立ち、同じ体格。

でも。

ほくろが右の頬にあった。

 

 

私は声をかけようとして、喉が凍りついた。

江藤医師は振り返り、微笑んだ。

「何か?」

声のトーンが、昨日より低い。

「い、いえ……」

医師は首を傾げ、また歩き出した。白衣の背中が、廊下の奥に消えていく。

私は慌てて面会室に向かった。

母は泣いていた。

「誰も信じてくれない。看護師さんたちも、みんな同じ先生だって言うの」

「お母さん……」

「でも違うの。絶対に違う。今日来た先生は、私が言ったことを覚えてなかった。昨日約束したはずのことを」

私は母を抱きしめた。母の体は小刻みに震えていた。

「退院しよう。転院の手続きをする」

「ダメなの」

母は私の腕をつかんだ。

「江藤先生が言ったの。ここを出たら、治療が台無しになるって」

「でも……」

「それに」

母は私の目を見た。

「昨日の江藤先生はね、優しく言ってくれたの。『もうすぐ楽になれますよ』って」

私の背筋に悪寒が走った。

その夜、病院から電話があった。

母が容態を急変させたという。

私が病院に着いた時、江藤医師が待っていた。

どちらの頬にも、ほくろはなかった。

「残念ですが……」

医師は首を横に振った。

「突然のことで。私たちも驚いています」

その声は、今まで聞いたどの江藤医師の声とも違っていた。

「お別れをどうぞ」

医師は面会室の扉を開けた。

母はベッドに横たわっていた。目を閉じ、穏やかな表情をしている。

私は母の手を握った。まだ温かかった。

ふと、母の握りしめた右手を見た。

何かを掴んでいる。

私はそっと母の指を開いた。

小さな名札が出てきた。

『江藤』の文字。

その下に、手書きで何か書かれている。

私は目を凝らした。

震える文字で、こう書かれていた。

『6人目』

扉の外で、誰かの足音が遠ざかっていく。

何人もの、同じリズムの足音が。


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