村の外れに、誰も近づかない石塔がある。
俺たち三人が肝試しでそこへ行ったのは、夏休みの終わりだった。懐中電灯の光が揺れる中、ユウキが石塔の表面を照らした。
「うわ、なんか彫ってあるぞ」
無数の名前が刻まれていた。古いものは文字が読めないほど風化している。新しいものは、まだ鋭い刻み跡を残していた。
「これ、全部人の名前じゃね?」
マサトが指でなぞる。その瞬間、俺は自分の名前を見つけた。
「タクヤ」
俺の名前だ。間違いない。筆跡まで、俺が書く字にそっくりだった。
「おい、これ誰が彫ったんだよ」
ユウキとマサトも、次々と自分の名前を見つけた。三人とも、同じ高さに並んで刻まれている。昨日彫ったばかりのような、新しい傷だった。
「悪ふざけだろ。誰かが俺らの名前を」
マサトが震える声で言った。だが、この村で俺たちのフルネームを知っている奴がどれだけいる? それに、なぜこんな場所に?
「消そうぜ」
ユウキが石を拾って、自分の名前を削り始めた。ガリガリという音が夜に響く。だが、削っても削っても、文字は消えない。むしろ濃くなっていくようだった。
「やめろって」
俺が止めると、ユウキの手が震えていた。削った部分から、黒い液体が滲み出していた。血ではない。もっと粘つく、腐った何かの匂いがした。
マサトが後ずさる。
「帰ろう。ヤバイって」
その時、石塔の根元が崩れた。
土が陥没し、穴が開いた。穴の中から、白いものが覗いている。最初は石だと思った。だが、懐中電灯の光が当たった瞬間、それが人の頭蓋骨だと分かった。
しかも一つではない。無数の骨が、石塔の下に埋まっていた。
「逃げろ!」
俺たちは走った。村へ、光のある場所へ。
警察が来て、発掘が始まった。石塔の下から出てきたのは、三十体以上の遺体だった。すべて身元不明。だが、骨には刃物で削られたような痕があり、それが文字を形作っていた。
被害者の骨に、彼ら自身の名前が刻まれていた。
警察は言った。
「君たちの名前が彫られていたのは、偶然だろう。昔の記録と一致しただけだ」
だが、俺は知っている。あの石塔の名前は、生きている人間のものだったはずだ。なぜなら——
その夜から、俺たちの体が変わり始めた。
最初は爪だった。妙に硬くなり、割れなくなった。次に皮膚だ。触ると冷たく、石のような感触になっていく。
ユウキが最初に気づいた。
「おい、骨が……」
彼の腕を触ると、肉の下で骨がゴツゴツと主張していた。まるで表面に浮き出ようとしているように。
「医者に行こう」
マサトが泣きながら言った。だが、俺たちは知っていた。これは病気じゃない。
石塔に名前を刻まれた者は、やがて石になる。
そして石になった者は、次の名前を刻むために動き出す。
窓の外を見ると、月明かりの中に人影があった。ゆっくりと、こちらへ歩いてくる。その手には、鋭い石のようなものが握られていた。
彫刻刀のように研ぎ澄まされた、人間の指だった。
俺の皮膚が、音を立てて硬化していく。

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