幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

幽譚録#08「年越せず」

みそかの夜は、だいたいいつもこうなる。

テーブルの上には空いた缶と、半端に残った酒。

喉の奥が焼けるように気持ち悪く、頭は重い。

深酒だった。

理由ははっきりしている。

一年の終わりに、一人でいるのが耐えられなかった。

テレビはついている。

紅白なのか、もう別の番組なのか、よく分からない。

音だけが部屋に流れ、内容はまったく頭に入ってこない。

壁の時計を見る。

23時58分。

「……まだかよ」

思わず、独り言が漏れる。

早く終わってほしかった。

この一年も、この気分も。

ソファに身を沈めたまま、目を閉じる。

吐き気と後悔が、交互に押し寄せてくる。

「飲みすぎよ」

声がして、目を開けた。

妻が、そこにいた。

一瞬、何が起きているのか分からなかった。

いつものように、キッチンから声をかけられた気がした。

「……え?」

間の抜けた声が出る。

妻は湯のみを手に、こちらを見ている。

「だから言ったでしょう。ほどほどにしなさいって」

見慣れた口調。

見慣れた顔。

なのに、胸の奥が大きく跳ねた。

理由は分からない。

ただ、「あれ?」という感覚だけが残る。

「どうしたの?」

「いや……」

言葉が続かない。

なぜ驚いたのか、自分でも説明できない。

妻は気にした様子もなく、ソファに腰を下ろした。

「一年、長かったわね」

「ああ……ほんとにな」

そう答えた瞬間、不思議と気分が軽くなった。

さっきまでの最悪な酔いが、少しだけ引いていく。

「久しぶりだな、こうやって話すの」

「そう?」

妻は笑った。

その笑顔を見た途端、胸の奥が温かくなる。

楽しい。

久しぶりに、ちゃんと楽しい。

テレビの音が、少しだけはっきり聞こえた。

部屋の空気が、柔らかくなった気がした。

スマホを見る。

23時58分。

なぜか、日付は表示されていない。

「もうすぐだね」

妻が言う。

「何が?」

「年越し」

そう言われて、少し笑った。

「こんな気分で迎えるの、何年ぶりだろうな」

遠くで、低い音が鳴った。

――ゴーン。

除夜の鐘だ。

一回。

二回。

数えようとするが、途中で分からなくなる。

音の間隔が、微妙にずれている。

「ねえ」

妻が、何気ない調子で言った。

「毎年さ、年越しってうまくいかない人、いるでしょう」

「うまくいかない?」

「気づいたら終わってた、みたいな人」

「そんなに違うもんか?」

「違うわよ。ちゃんと切り替えられる人と、そうじゃない人」

妻はそう言って、壁の時計をちらりと見た。

「ぼーっとしてると、そのまま置いていかれるから」

時計を見る。

23時58分。

秒針が、わずかに震えたまま進まない。

テレビの画面が一瞬暗くなり、知らない映像に切り替わった。

見覚えのない年号。

玄関の外が、少し騒がしい。

人の声。

足音。

「そろそろね」

妻が立ち上がる。

「待てよ」

呼び止めると、彼女は振り返った。

そのとき、違和感がはっきりした。

この部屋に、妻の物がない。

靴も、コートも、普段使っていたマグカップも。

あるのは、写真立ての中の妻だけ。

思い出が、急に押し寄せた。

数年前の冬。

病室。

静かに下ろされたカーテン。

――そうだ。

妻は、もういない。

妻は何も言わず、ただ微笑んでいる。

その笑顔が、写真と同じだった。

「来年は……」

妻はそう言いかけて、言葉を止めた。

そして、玄関の向こうへ消えた。

壁の時計を見る。

23時58分。

変わらない。

――――――――――

新年の朝。

集合住宅の一室で、住人が発見された。

死亡推定時刻は、前日の夜。

みそか

テレビはついたまま、年明け特番を映している。

壁の時計は、23時58分で止まっていた。

部屋の中央で倒れていた遺体は、

年を越す瞬間を、待ち続けていたような表情をしていた。

 

 


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