幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

都市怪談録#10「奥から2番目」

深夜残業を終えた佐藤は、駅まで歩く途中、腹痛に襲われた。脂汗が滲む。近くの公園の公衆トイレに駆け込むしかなかった。

蛍光灯が一つ点滅している。男子トイレには個室が四つ並んでいた。

手前から三つ目の個室に入ろうとしたとき、奥から二番目の扉が開いた。中年の男が出てきて、佐藤とすれ違った。男の顔は青白く、目だけが異様に見開かれていた。

「……入るな」

男は消え入るような声でそう呟いて、よろめきながら出口へ消えていった。

佐藤は首を傾げた。変な奴だ。手前から三つ目の個室に入り、用を足した。

翌週。また深夜残業になった佐藤は、同じ時刻に同じ公園の前を通った。腹痛はなかったが、なぜか足がトイレへ向かっていた。

蛍光灯は今日も点滅していた。個室は四つ。奥から二番目の扉だけが、わずかに開いていた。

佐藤は吸い寄せられるように、その個室の前に立った。中を覗く。何もない。便器があるだけだ。

「……別に、普通じゃないか」

呟いて、佐藤は中に入った。鍵をかける。カチリ、という音が妙に大きく響いた。

用を足し終えて、立ち上がった瞬間だった。

扉の内側、佐藤の目の前に、文字が浮かび上がった。いや、違う。扉の外側に文字が浮かんでいるのが、透けて見えているのだ。

**佐藤健一**

自分の名前だった。

心臓が跳ねた。鍵を外そうとしたが、開かない。何度回しても、押しても引いても、扉はびくともしなかった。

「開けろ!誰か!」

叫んだ。だが声は個室の外に届いていない気がした。壁を叩く。音が吸い込まれていく。

 


パニックになりかけたとき、便器の水面に文字が浮かんだ。

**次の者が来るまで待て**

**次の者を中に入れろ**

**そうすれば お前は出られる**

佐藤は震えた。次の者。つまり、誰かを身代わりにしろということか。

そんなことできるわけがない。佐藤は扉を叩き続けた。

時間が経った。

腕時計を見る。午前1時5分。入ってから10分しか経っていない。だが体感では何時間も経った気がした。

また時計を見る。午前1時6分。

1分しか経っていない。

佐藤は便座に座った。落ち着け。朝になれば誰か来る。そうしたら助けを呼べる。

時計を見る。午前1時7分。

また見る。午前1時8分。

1分が、永遠のように長かった。

個室の中には何もない。音もない。蛍光灯の光だけが、変わらず照らし続けている。

佐藤は立ち上がり、また扉を叩いた。誰も来ない。

時計を見る。午前1時20分。

12分しか経っていない。だが佐藤の感覚では、何日も経ったような気がした。

空腹も喉の渇きも感じなかった。ただ時間だけが、異様に引き延ばされて流れていく。

午前2時。

佐藤は壁に背中を預けて座り込んでいた。もう何も考えられなかった。ただ時計の秒針を見つめていた。

一秒、一秒が、まるで一時間のように長い。

午前3時。

佐藤は床に横たわっていた。天井を見つめる。時間の感覚が完全に狂った。ここに入ってから何年も経った気がする。

午前4時。

もう時計を見るのも辛かった。たった3時間。でも永遠だった。

佐藤の精神が擦り切れていった。誰でもいい。誰か来てくれ。このままでは狂ってしまう。

そして午前5時過ぎ、ついに扉の外を誰かが通る気配がした。

佐藤は飛び起きた。

「助けてくれ!閉じ込められたんだ!」

声が枯れていた。

「……誰かいるのか?」

若い男の声だった。

「頼む!開けてくれ!」

扉のノブが回った。外から開けようとしている。だが開かない。

「おかしいな……鍵がかかってる」

若い男が呟く。

佐藤の頭に、便器に浮かんだ文字が蘇った。

**次の者を中に入れろ**

いや、そんなことできない。でも、でも……このままでは……。

佐藤は4時間の地獄を思い出した。いや、体感では何年も、何十年も閉じ込められていた気がする。もう耐えられない。

「頼む、開けてくれ!」

「わかった、今開ける!」

若い男は善意で答えた。

佐藤は震える手で鍵を回した。カチリ。今度は軽く開いた。

扉が開く。若い男と目が合った。男は心配そうな顔をしていた。

「大丈夫ですか?」

佐藤は答えなかった。ただ若い男の肩を掴み、個室の中に押し込んだ。

「え、ちょっと……!」

若い男がバランスを崩して中に倒れ込む。佐藤は素早く外に出て、扉を閉めた。

中から若い男の叫び声が聞こえた。

「何するんですか!開けてください!」

ドンドンと扉を叩く音。

佐藤は振り返らずトイレを出た。冷たい夜風が頬を撫でた。自由だ。助かったんだ。

罪悪感が胸を刺した。だが仕方なかった。あの地獄には、もう一秒たりとも耐えられなかった。

そう自分に言い聞かせながら、佐藤は家へ向かった。

翌朝、佐藤は目を覚ました。いつもの部屋、いつものベッド。

だが鏡を見て、凍りついた。

自分の額に、薄く文字が浮かんでいた。

**奥から2番目**

消そうと擦ったが、消えない。それどころか、時間が経つにつれて濃くなっていく気がした。

会社に行った。同僚が佐藤の顔を見て、首を傾げた。

「佐藤さん、額に何か……」

「え?」

「いや、気のせいか」

同僚は目を擦って、また仕事に戻った。

だが佐藤にはわかった。文字が見える人と見えない人がいるのだ。

その日の午後、取引先との打ち合わせで、相手の営業部長が佐藤の額を見つめた。

「……奥から2番目、ですか」

部長の顔が青ざめた。

「あなたも、入ったんですね」

佐藤は何も言えなかった。

「私もです。5年前に」

部長は小さな声で続けた。

「でも、出られたんですよ。誰かを身代わりにして」

佐藤は頷いた。

「ただ、」部長は俯いた。「それからずっと、この印が消えないんです。そして、印がある人間には、ある宿命が課されます」

部長は佐藤の目をまっすぐ見た。

「あなたの周りの人が、いつかあの個室に入ります。家族、友人、同僚。誰かが必ず入る。そして助けを求める。でもあなたは助けてはいけない」

部長の声が震えた。

「もし助けたら、あなたがまた閉じ込められる。だから見捨てなければならない。何度も、何度も」

佐藤の背筋が凍った。

「私はこの5年で、3人見捨てました。部下、友人、弟」

部長は笑った。だがそれは笑顔ではなく、歪んだ絶望だった。

「奥から2番目に入った者は、一時的に出られる。でも代償として、一生、人を見殺しにし続けなければならない。それが本当の呪いなんですよ」

佐藤は何も言えなかった。

その夜、佐藤の携帯が鳴った。大学時代の友人からだった。

「佐藤、今どこ?実は……変なことになってて」

友人の声は震えていた。

「公園のトイレに入ったんだけど、扉が開かなくて……お前、近くだろ?来てくれないか」

佐藤の手から携帯が滑り落ちそうになった。

「……どこの公園?」

「駅前の……奥から2番目の個室なんだ」

佐藤は電話を切った。

友人からまた電話がかかってきた。無視した。何度も、何度もかかってきた。

やがて着信は止んだ。

翌日、友人の訃報を聞いた。公園のトイレで心臓発作を起こしたらしい。発見が遅れて、手遅れだった。

葬儀に出た佐藤の額には、文字がさらに濃く刻まれていた。

そして佐藤は理解した。

奥から2番目の個室から出られたことは、救済ではなかった。

それは、永遠に人を裏切り続ける地獄の始まりだった。

誰かを犠牲にすれば助かる。そう思って個室を出た。

だがそれは罠だった。本当の苦痛は、出た後に待っていた。

佐藤は鏡を見た。額の文字が、まるで焼印のように熱を持っている気がした。

次は誰だ。次は誰を見捨てる。

妻か。息子か。それとも……。

ピリリリリ!

心臓が跳ねた。佐藤の携帯が震えたのだ。

恐る恐る携帯の画面に目を落とすと、最も見たくない名前が浮かび上がった。

……息子からのメールだった……。

 


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