幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

幽譚録#10「倉庫の手跡」

深夜二時。俺は一人、バイト先の倉庫で棚卸しをしていた。

フリーター三年目。こんな時間に一人で作業するのも慣れたものだ。店長は「明日の朝までに終わらせといて」とだけ言い残して帰った。時給は深夜割増だし、文句はない。

スマホの明かりを頼りに、奥の棚まで歩く。

薄暗い倉庫の中、俺の足音だけが響く。在庫リストを確認しながら、段ボールの数を数えていく。単調な作業だが、嫌いじゃない。誰にも邪魔されないこの静けさが、むしろ心地いい。

ガシャン。

突然、背後で音がした。

振り返ると、三列目の棚が崩れている。段ボールが散乱し、金属製の棚板が床に倒れていた。

「……風か?」

窓は閉まっている。エアコンも止めた。地震でもない。

俺は首を傾げながら近づいた。棚を起こして、段ボールを拾い集める。別に大したことじゃない。固定が甘かっただけだろう。

作業を再開する。

十五分後。

ガシャン。

また同じ音。今度は一列目の棚だ。

「おい、マジかよ……」

さっきと同じように、棚が倒れて段ボールが散らばっている。俺は舌打ちしながら駆け寄った。これじゃ棚卸しが進まない。

棚を起こしながら、ふと違和感を覚えた。

倒れた棚板に、何かついている。

埃の積もった金属面に、くっきりと残る痕。

手の跡だ。

五本の指が、内側から棚を押したような形で残っている。まるで誰かが棚の中から這い出そうとしたかのように。

「……いや、待て」

俺は冷静に考えようとした。搬入作業の時についた跡かもしれない。でも、この倉庫で扱ってるのは食品だ。誰も棚の内側なんか触らない。

それに、この手の跡、妙に小さい。

子供の手のようだ。

背筋が冷たくなる。俺は立ち上がり、倉庫全体を見渡した。

誰もいない。

当たり前だ。鍵は俺が持っている。入り口は一つだけ。窓は全て施錠されている。

「気のせいだ」

そう呟いて、作業を続ける。

だが手は震えていた。在庫リストの文字が頭に入ってこない。何度も同じ段ボールを数え直す。

時計を見る。二時四十分。

あと三時間もある。

「早く終わらせよう」

俺は作業スピードを上げた。とにかく、ここから出たかった。

ガシャン。

三度目。

今度は目の前の棚だ。

俺が段ボールを手に取ろうとした瞬間、目の前で棚が崩れ落ちた。金属音が耳を突き刺す。段ボールが床に叩きつけられ、中身が飛び出す。

俺は後ずさった。

倒れた棚板を見る。

また、手の跡。

さっきと同じ。五本の指。内側から押した痕。子供の手。

いや、違う。

今回は二つある。

左右の手が、まるで這い出そうともがいたように残っている。

 


「誰だ!」

俺は叫んだ。声が倉庫中に反響する。

返事はない。

「誰かいるなら出てこい! ふざけんな!」

静寂。

自分の荒い息遣いだけが聞こえる。

俺は携帯を取り出した。店長に電話しようとする。でも、何て言えばいい? 「棚が勝手に倒れます」? 「手の跡があります」? 笑われるだけだ。

それに、本当に誰かいるなら、警察を呼ぶべきだ。

でも、いない。絶対にいない。この倉庫には俺しかいない。

「落ち着け……落ち着け……」

俺は深呼吸した。理性的に考えよう。棚の固定が全体的に緩んでいるんだ。それだけだ。手の跡は、きっと前からあった。気づかなかっただけ。

そうだ。そうに決まってる。

俺は倒れた棚を無視して、別の列に向かった。とにかく作業を終わらせる。数を数えて、リストに記入する。機械的に手を動かす。

考えるな。考えるな。

十分が過ぎた。

何も起きない。

よかった。もう大丈夫だ。

ガシャン。

四度目。

俺の真横の棚が倒れた。

あまりに近くて、俺の肩に金属板が当たる。痛みが走る。

「くそっ!」

俺は棚から飛び退いた。

そして見てしまった。

倒れた棚板についた手の跡。

さっきと同じ。子供の手。五本の指。内側から。

でも今回は違う。

手の跡が、新しい。

埃がない。さっき、今さっき、ついたばかりのように鮮明だ。

「あ……あ……」

言葉にならない。

理解したくなかった。でも理解してしまった。

誰かが、棚の中にいる。

いや、いた。

ずっと前から。

この倉庫の棚の中に。

「嘘だ……嘘だろ……」

俺は後ずさる。

でも、どこに逃げればいい? この倉庫全体が棚で埋め尽くされている。どの棚にも、もしかしたら……

ガシャン。ガシャン。ガシャン。

連続で倒れ始めた。

あちこちで棚が崩壊する。金属音が重なり合い、耳をつんざく。段ボールが床を転がる。

俺は走った。

出口に向かって全力で走る。

でも足が絡まる。散乱した段ボールに躓く。転びそうになりながら、必死で走る。

目の前の棚が倒れる。

道を塞ぐ。

俺は迂回した。別の通路を抜ける。

また棚が倒れる。

「やめろ! やめてくれ!」

叫びながら走る。

汗が目に入る。視界が歪む。

あと少し。あと少しで出口だ。

ガシャン。

最後の棚が、出口の直前で倒れた。

俺は立ち止まった。

倒れた棚を見る。

手の跡。

また、手の跡。

でも今回は違う。

手の跡が、こっちを向いている。

外側についている。

 

 

誰かが、棚の外から、こっちから、中に押し込まれたように。

「あ……」

理解した。

全部、逆だったんだ。

手の跡は、中から這い出ようとしたんじゃない。

外から、押し込まれたんだ。

誰かが。

何かが。

この倉庫で。

俺の頭が真っ白になる。

「違う……違う……俺は……俺は何も……」

記憶が蘇る。

三年前。

バイトを始めたばかりの頃。

深夜の倉庫。

俺は一人じゃなかった。

もう一人、バイトがいた。

高校生の子。名前も顔も思い出せない。いや、思い出したくない。

あの子が言った。

「ねえ、この奥って何があるんですか?」

「さあ。行ったことない」

「じゃあ、見に行きましょうよ」

「いいけど」

一緒に奥まで行った。

一番奥の棚。

あの子が中を覗き込んだ。

「暗くて見えないです」

「そりゃそうだろ」

その時。

棚が揺れた。

俺は、咄嗟に、

押した。

何で押したのか、自分でもわからない。

ふざけてたのか。

驚かそうとしたのか。

でも、押した。

棚を。

あの子ごと。

倒した。

「痛っ!」という声。

でもすぐ、笑い声に変わった。

「もう、ひどいですよ!」

あの子は起き上がった。

笑ってた。

「大丈夫?」

「平気です。びっくりしました」

それで終わりだった。

次の日、あの子は来なかった。

その次も。

店長に聞いた。

「ああ、辞めたって連絡あったよ」

それだけ。

俺は忘れた。

忘れたはずだった。

でも。

もし。

もし、あの時。

あの子が起き上がらなかったら?

もし、笑い声じゃなかったら?

もし、俺が思い込んでただけだったら?

「違う……違う……あの子は笑ってた……立ち上がってた……」

ガシャン。

目の前の棚がまた倒れる。

手の跡。

小さな手。

子供の手。

いや、違う。

高校生の手だ。

「やめろ……やめてくれ……」

俺は膝をつく。

倉庫中の棚が倒れる音が止まらない。

金属音。

段ボールの音。

でも、それ以外は。

何も聞こえない。

声も。

足音も。

何も。

ただ、倒れ続ける棚と。

増え続ける手の跡だけ。

俺は床に座り込んだ。

もう逃げられない。

逃げる意味もない。

ずっと、ここにいたんだ。

あの子は。

俺が押した棚の下で。

三年間。

ずっと。

倉庫が静かになった。

全ての棚が倒れ終わった。

俺は動けない。

ただ、床に座って、周りを見渡す。

無数の手の跡。

全部、同じ大きさ。

全部、同じ形。

全部、あの子の手。

俺は何も言えなかった。

言葉が出ない。

ただ、そこに座っている。

夜明けまで。

ずっと。


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