幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

異形譚#14「知らない部屋」

三年二組の担任、桐島麻衣は放課後の教室で画用紙の束を抱えていた。

図工の時間に描かせた「自分の家」の絵だ。

子どもたちのクレヨン画はどれも愛らしく、歪んだ屋根や丸い窓が並んでいる。麻衣はひとつひとつに赤ペンでコメントを書きながら、机の端に重ねていった。

最後の一枚を手に取ったとき、指が止まった。

児童名欄は空白だった。

絵には大きな家が描かれていた。二階建て、三つの窓、赤い屋根。どこにでもある家だ。ただ、筆圧が妙に強い。クレヨンが紙に食い込んでいた。

麻衣は名前を確認しようと出席簿を広げたが、三年二組は三十一人。手元の枚数を数えると、三十二枚あった。

「……数え間違えたかな」

呟いて、無名の絵を職員室の引き出しにしまった。

翌朝、絵を確認すると、家の隣に小さな木が一本増えていた。

麻衣は三度、数えた。昨日は確かになかった。

子どもがいたずらしたのか。でも職員室には鍵をかけている。第一、なぜこの絵だけに。

その日の放課後、麻衣は絵をスマートフォンで撮影してから引き出しに戻した。翌朝、画像と見比べる。木の位置が微妙にずれていた。幹が、昨日より太い。

一週間が経った。

絵の中の庭には花壇が生まれ、洗濯物が窓から下がり、表札が追加された。表札の文字は判読できないほど小さかったが、麻衣は虫眼鏡で覗いた。

「桐島」と書いてあった。

麻衣は椅子ごと後ずさった。

その夜、家に帰れなかった。ビジネスホテルに泊まり、翌朝一番で職員室に駆け込んだ。

引き出しを開ける。

家の絵に、新しい部屋が増えていた。

一階の右端、昨日まで壁だった場所に、小さなドアが描かれている。ドアの向こうは塗りつぶされた黒ではなく、部屋の輪郭だった。窓がある。ベッドがある。

そしてベッドの上に、人が横たわっていた。

麻衣は絵を裏返した。

深呼吸をした。考えた。

子どもの悪戯ではあり得ない。毎朝鍵を開けるのは自分だ。防犯カメラの映像を確認しよう。絵を証拠として教頭に見せよう。それでも納得できなければ廃棄する。ただそれだけだ。

カメラの映像には、誰も映っていなかった。引き出しに近づいた人間はいない。麻衣を含めて。

教頭は困り顔で、「疲れてるんじゃないか」と言った。

麻衣は絵を持ち帰ることにした。

自宅で管理し、変化を記録する。変化が確認できれば証拠になる。できなければ、自分の錯覚だと認める。どちらにしても決着がつく。

その夜、麻衣はダイニングテーブルに絵を置き、向かいの椅子に座って眺めた。

眠らなかった。

朝になった。

絵は変わっていなかった。

麻衣は安堵した。錯覚だったのだ。疲弊と思い込みが重なった、ただの錯覚。

立ち上がり、台所でコーヒーを淹れた。カップを持ってダイニングに戻ったとき、絵に目を向けた。

「知らない部屋」の窓に、人の顔があった。

目は細く、口は横一文字に閉じていた。髪は長い。

顔の輪郭は桐島麻衣に似ていた。

麻衣は絵を引き裂こうとした。両手で端を掴んで、力を込めた。

画用紙は、破れなかった。

濡れた紙のように指が滑り、端が手の中でするりと逃げた。床に落とした。拾って、ハサミを取り出した。刃を当てた瞬間、ハサミの刃が折れた。

 

 

ライターで角に火を近づけた。燃えなかった。

麻衣はその場に座り込んだ。頭を抱えた。考えた。考え続けた。

もし最初から捨てていれば。職員室に置きっぱなしにしていれば。手に取らなければよかった。名前を読もうとしなければ。

でも麻衣は思い出した。

最初に絵を手にした夜、奇妙だと思いながら、どこかで期待していた。謎が解ける瞬間を。「なんだ、そういうことか」と笑える結末を。

自分は怖いもの見たさで、ここまで来た。

疲れ果てた麻衣は、そのままダイニングの床で眠り込んだ。

目が覚めたのは深夜だった。

体が冷えていた。顔を上げると、テーブルの上の絵が目に入った。

「知らない部屋」の窓から、顔が消えていた。

ベッドに横たわっていた人の姿も、消えていた。

部屋ごと、綺麗に塗り消されていた。まるで、もうそこには用がないというように。

麻衣は寝室に移動した。

ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。

天井を見た。

天井の隅、壁との境目に、細い線があった。

四角い輪郭。

小さなドア。

そしてそのドアの隙間から、何かがこちらを覗いていた。

目が細く、口は横一文字に閉じていた。髪が長い。

天井の顔は、ゆっくりと笑った。

麻衣は声を上げようとした。

でも気づいた。

絵の中の「知らない部屋」に描かれていたのは、ベッドの上に横たわる人間だった。

今、自分はベッドの上に横たわっている。

絵は完成していた。


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