幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

妖異抄#08「踏切の鉄鼠」

終電を逃した夜、携帯の電池も切れていた。

慎也は遠回りになる踏切を渡るしかなかった。夜の十一時を過ぎ、街灯もまばらな道に人影はない。

カンカンカン、と警報音が鳴り響く。

遮断機が下りる直前、慎也は駆け込もうとして足を止めた。

線路の向こう側に、何かがうごめいていた。

最初は影だと思った。だが、それは膨れ上がり、蠢き、こちらへ近づいてくる。月明かりに照らされて、ようやくその正体が見えた。

ネズミだった。

数百、いや数千匹のネズミが、黒い波のように線路を埋め尽くしていた。

「なんだ、これ……」

慎也の声が震える。ネズミたちは線路を這い、枕木を駆け、レールに群がっていた。その数は見る間に増え続け、踏切全体を覆い尽くそうとしていた。

電車が近づく振動が足元から伝わってくる。

ネズミたちは逃げなかった。それどころか、線路の上で立ち止まり、一斉にこちらを向いた。

数千の目が、慎也を見つめていた。

「ニンゲン」

誰かが呼んだ。

慎也は周囲を見回した。誰もいない。

「ニンゲン、キコエルカ」

声は足元から聞こえてきた。ネズミたちが口を開いている。一匹一匹が、バラバラに、しかし同じ言葉を紡いでいた。

「ワタシタチハ、マッテイタ」

鳥肌が立つ。足が動かない。

「オマエヲ、マッテイタ」

電車のライトが遠くに見えた。警報音が激しさを増す。

ネズミたちは動じない。線路の上で、踏切の中で、じっと佇んでいる。

「ニンゲンガ、オトシタモノヲ、ヒロッタ」

何を言っているのか分からない。慎也は後ずさりしようとしたが、足が遮断機に引っかかった。

「サンネンマエ、オマエハ、コノバショデ、ヒロッタ」

三年前。

記憶が蘇る。

確かにこの踏切で、財布を拾ったことがあった。中身は十万円。落とし主を探すこともなく、警察に届けることもなく、慎也はそれを使った。

「アノカネハ、ワタシタチノモノダッタ」

ネズミたちが一斉に前進した。

「ワタシタチガ、ヌスンダカネダッタ」

電車が迫る。ライトが踏切を照らし始めた。

「ダカラオマエハ、ワタシタチカラヌスンダ」

「ふざけるな!」

慎也は叫んだ。

「お前らだって盗んだ金だろうが! 泥棒が泥棒に説教するな! 人間に化けて偉そうに喋ってんじゃねえよ、害獣が!」

ネズミたちの動きが止まった。

一瞬の静寂。

そして、甲高い鳴き声が響き渡った。

「ドロボウハ、ドロボウ」

「ツミビトハ、ツミビト」

「オマエモ、オナジ」

ネズミたちが踏切の中へ流れ込んできた。足元を這い上がり、ズボンに爪を立て、背中を駆け上がる。

「イマカラオマエハ、ワタシタチノナカマダ」

電車が目の前まで来ていた。

慎也は必死にネズミを振り払おうとしたが、数が多すぎる。体中を這い回り、服の中に潜り込み、口元に迫ってくる。

その時、遮断機の向こうから人影が現れた。

「おい、大丈夫か!」

駅員だった。懐中電灯の光が慎也を照らす。

「助けて!」

慎也は手を伸ばした。駅員が駆け寄ってくる。

ネズミたちが一瞬、動きを止めた。

「ニンゲンガクル」

「マダダ、ヤツハマダニンゲンダ」

「マズハカンセイサセロ」

黒い波が引いていく。ネズミたちは線路から離れ、闇の中へ消えていった。

駅員が慎也の腕を掴み、踏切の外へ引っ張り出した。電車が通過していく。轟音と風圧。

「危なかったな。なんでこんなところに」

駅員の声が遠い。

慎也は息を荒げながら、自分の体を確認した。服は破れ、腕には無数の引っかき傷があったが、命に別状はない。

「助かった……」

安堵の息を吐いた瞬間、駅員の手が慎也の肩を掴んだ。

「なあ、お前」

駅員の声が変わっていた。

「三年前、ここで金、拾ったろ」

慎也は顔を上げた。

駅員の目が、真っ黒だった。人間の目ではない。ネズミの目だった。

「助けてやったと思ったか」

駅員の口元が裂ける。中から小さな鼻先が覗く。

「オレハモウ、カンセイシテル」

「ダカラ、ニンゲンニマジッテ、エモノヲサガセル」

「オマエヲミツケタノモ、オレダ

駅員の腕から黒い毛が生え始める。

「オマエハ、アノトキ、ハンコウシタ」

「ダカラマズ、オソレヲトリノゾク」

「ソシテ、アンシンサセテカラ、カエル」

背後で何かが蠢く音がした。

振り返ると、踏切の向こう側に、さっきとは比べ物にならない数のネズミが集まっていた。

そして、その中に人間の姿が混じっていた。

学生服を着た者、スーツ姿の者、作業着の者。

みな、目が真っ黒だった。

「ナカマガフエタ」

ネズミたちが一斉に囁く。

「マタアシタモ、フエル」

駅員の姿が崩れていく。制服が破れ、体が縮み、黒い毛に覆われていく。

最後に残ったのは、一匹のネズミだった。

それは慎也の足元で立ち上がり、人語で囁いた。

「ハンコウシタブン、モットクルシメル」

慎也は走り出した。

だが、数メートル進んだところで足が止まった。

体が動かない。

足元を見下ろすと、自分の手が黒く変色し始めていた。指が縮み、爪が伸び、毛が生えてくる。

全身に激痛が走る。骨が軋み、肉が捻れる。

 

 

「やだ、やだ……」

声が掠れる。喉が細くなっていく。

膝から崩れ落ちる。視界が低くなる。

痛みは消えない。変化が止まらない。

最後に見えたのは、踏切の向こうで待つ無数のネズミたちと、その中に混じる人間の形をした何かだった。

そして、自分もそこに加わることになるのだと、理解した。

翌朝、踏切の近くで学生鞄が見つかった。

中には財布と学生証。持ち主の名前は加藤慎也

警察は家出と判断した。

それから一週間後、同じ踏切で若い女性が行方不明になった。

その翌週も、また一人。

夜の踏切には、今日も警報音が鳴り響いている。

そして線路の向こうで、何かが蠢いている。

人間の姿をした駅員が、懐中電灯を持って、獲物を探している。


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