幽霊博士の実験記録──AIが綴るショートホラーと恐怖作品紹介

「ホラー小説×AI創作」──AIが綴る怪談短編と、恐怖を解剖する作品紹介。

呪具記#01「紙垂(しで)の箱」

小学校の夏休みの自由研究で、「地元の伝説を調べよう」なんて言い出したのは佐伯だった。

俺と圭太は、ただの幼馴染で、なんとなくそれに付き合っただけだった。

佐伯は学級委員で、俺たちより少し背が高く、勉強もできた。いつも少し上から命令口

調で話すやつだったけど、妙に憎めないところがあった。

祠があるのは、町はずれの古い寺の裏山だった。

山門から外れた細い獣道を登っていくと、木立の影に、それはぽつんと建っていた。

大人の背丈ほどの小さな祠の中央に、一つの箱が据えられていた。

朱の色がかすれた木箱には、四方から紙垂(しで)が垂れていて、太い麻縄で固く封じられている。

近くの石碑には、なにかが刻まれていたが、苔と風化で読み取れなかった。

「これ……たぶん“しで”ってやつだよな。神道で使うやつ」

佐伯がしゃがみこんで言った。

「絶対あけるなって、ばーちゃんが言ってた。なんか、この箱には“なにかが入ってる”って」

圭太が眉をしかめて言う。

「そんなの、ただの言い伝えだって」

佐伯は笑った。

俺はなぜか黙っていた。風もないのに、上の木々がざわりと鳴ったような気がした。

佐伯が、箱に手を伸ばした。

「やめたほうが……」

そう言いかけたときだった。

指先に、黒い染みが浮かんだ。

それは水でも墨でもなく、もっと鈍く、肌の内側でじわりと広がっていく黒。

指先から、手の甲へ、手首へ。まるで皮膚の下で影が染みこんでいくようだった。

 

 

「うわ、なにこれ……! うわ、やば……」

佐伯が手を振っても、染みは消えない。むしろ動くたびに、黒が身体の奥へ浸透していくのが見えた。

「戻ろう! 早く寺に戻ろうよ!」

圭太が叫んだ。

俺たちは三人で、急斜面を転げるようにして下った。

本堂に駆け込むと、ちょうど裏から老婆が出てきた。

佐伯が何か言いかけたその瞬間、老婆が低く叫んだ。

「見せるな」

老婆の目が、一瞬にして険しくなった。

「もう、見せてはならん。あれは“封じ箱”じゃ。中にあるものは、見てはならん、知ってはならん……」

「でも、指が……変なんだって!」

圭太が食い下がると、老婆は一瞬だけ目を閉じ、吐き捨てるように言った。

「お前ら……あの祠の由来を知らんのか。あれはな……昔、村で起きた“憑きもの騒ぎ”で、最期に閉じ込められた“もの”を封じとる箱なんじゃよ」

「憑きもの……?」

「そうじゃ。村人が、順番におかしくなった。口を開ければ誰かの名を呟いて、その者がまた次におかしくなって……。村中が呪いに取り憑かれたようになった。ようやく“あれ”を箱に封じたときには、寺の住職も死んでおった。封印には“血の紙垂(しで)”を使ったと聞いたよ。決して、開けてはならんのじゃ……」

佐伯はその日、黙ったまま家に帰った。

次の日から、学校に来なくなった。

担任は「熱を出してしばらく休むそうです」と言ったが、その後、一度も姿を見ていない。

転校の話を聞いたのは、その一ヶ月後だった。

直接は知らされなかった。誰かの噂話で、「もうこっちには戻らないらしい」「病院にも行けない状態になったんだって」と聞いた。

ある日、誰かが言っていた。

「佐伯の家の母ちゃんが、左手に包帯巻いてたってさ……あれ、移ったんじゃね?」

そして数日後、寺の住職の孫だという同級生が、休み時間に誰にも聞こえないようにこう囁いた。

「この前の夜、祠の紙垂(しで)、全部取り替えられてたって。封も、前よりきつくなってたってさ……」

そして、声を落として言った。

「住職が言ってたんだって。『出かけてきた跡があった』って……」

俺と圭太は、それっきり、その話を口にしなくなった。

祠にも近づいていない。

──なのに。

圭太が倒れたと聞いたのは、このあいだのことだ。

病名は聞かされなかった。病室のベッドの上、彼はやせ細り、左手に包帯を巻いていた。

「……言わないつもりだったんだよ」

圭太は、ぽつりと続けた。

「俺があの時、箱に触れたこと。……ずっと、誰にも言ってなかった。言ったら、同じことが起きる気がしてさ」

目の下に濃いクマを浮かべたまま、彼はゆっくり呼吸をした。

「でも、夢が……もう、逃げられないんだって分かった。俺だけじゃない。……お前にも来る、きっと」

包帯の端が少しずれた。そこから黒いものがにじみ出ていた。

それは、インクのような、でも完全に色の“ない”黒だった。

まるで、何かを隠すための穴のような黒。

俺は、なにも言えなかった。

あの時、俺だけは、触れていない。

けれど、昨夜。

夢の中で、俺は箱を見た。

紙垂(しで)が風もないのに揺れて、箱の蓋が、少しだけ――開いていた。

目を覚ますと、左手の人差し指に、小さな黒い点があった。

今日、それがほんの少し、大きくなっている。


読んでくださりありがとうございます。
よければ応援クリックお願いします。